本誌『Wedge』11月号の特集「日本の教育が危ない」では、中学受験のために小学3~4年生から受験に強い有名塾に通い、塾の授業についていくための個別指導塾に通うなどして費用がかかる〝課金地獄〟という現実を紹介している。
都内には「御三家」と呼ばれる超難関中学校がある。都内の女子中は桜蔭、女子学院、雙葉で、男子中は開成、麻布、武蔵のそれぞれ3校で、御三家を目指す親子は少なくない。中学入試が2月に集中するため御三家に合格すると「2月の勝者」とも呼ばれるが、「受験の渦中にいると気づかない。〝課金〟は無駄だった」という「2月の勝者」の声もある。
「課金したからと言って、学力が〝爆上がり〟することはありません。塾が無理してやらせるカリキュラムに踊らされず、しゅくしゅくとやるしかない。親が塾に踊らされたらおしまい。これだけお金をかけたのだから偏差値の高い中学に入ってほしい、という考えを捨てたほうがいいと思うのです」
松田杏子さん(仮名、40代後半)の息子は都内の御三家の中学に通い、娘は名門女子中学に入学して半年が経つ。いわゆる「2月の勝者」だ。杏子さんは、「〝塾のための塾〟にまで通うくらいなら、塾を変えるか受験への考え方を変えたほうがいい」と振り返る。
子ども2人は首都圏の名門私立小学校に通い、「中学受験するのが当たり前」という環境で育った。医師である杏子さん自身は小学校から大学まで全て国公立に通っていたが、自身の高校受験の経験から「内申点を重視する公立の入試はフェアではない」と感じていた。そして、「内申点を上げようと、中学生のうちから教員にこびへつらうようになってしまい良くない。ならば、テストの点数重視で自分の力で勝負できる中学受験をしたほうがいい」と思うようになった。
夫も医師で「中高一貫校なら勉強のスピードが早く、大学受験に有利になる」と、夫婦で中学受験させようと決めていた。杏子さんのママ友は小学1年生から受験のための塾選びに余念がなかったが、「働くようになったら体力がないといけない」と、息子が1~3年生の頃は運動重視でスイミングなどを習わせていた。
小学校の高学年になってから息子がマンツーマンで教えてもらえる算数教室に通うと、難しい問題を解くのが楽しくてしかたない様子。塾は少人数制でアットホームな雰囲気のところを選んだ。
杏子さんが中学受験に強いとされる〝有名塾〟を選ばなかった理由は、明快だ。
「有名塾は御三家の合格実績ばかり気にして、テストの点数がとれない子に温情がないようでした。それなのに、合格できそうもない子にも御三家を受けるよう無理を言うと感じていました。私の息子は算数が得意ですが、国語が不得意で成績が両極端。有名塾に通えばテスト全体の平均点でクラス分けされてしまいます。それで息子の自尊心が傷つくことが心配でした。学校の同級生の多くが有名塾に通い、『こんな点数をとったらお母さんに殺される』と言っていたのです。友達と違う塾に行けば成績が知られず、友達から余計な対立を煽られなくて済む。子どもの成績を比べるママ友同士の争いにも巻き込まれなくて済むと思いました」