海野素央の Love Trumps Hate

2017年11月28日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプの選挙公約遂行」です。来年1月20日でドナルド・トランプ米大統領が就任してから一周年を迎えますが、早くも同大統領の選挙公約の遂行を称賛する『トランプ・アニバーサリー・コレクション』が出版されました。

 出版社は、ニューヨークに本社をおくトピックス・メディア・ラボ社です。同社は雑誌を専門としており、2016年米大統領選挙では選挙日の直前にヒラリー・クリントン元国務長官の勝利をテーマにした雑誌を出版し、即座に回収をする羽目になりました。

 『トランプ・アニバーサリー・コレクション』は、わずか15頁程度の雑誌で、「プロパガンダ」の色彩が濃いのですが、同大統領が一年目で果たした選挙公約をリストアップしており、注目に値します。雑誌には「米国を再び偉大な国に取り戻す」及び「米国第一主義」と印刷された2種類のバンパーステッカーの付録がついています。熱狂的なトランプ支持者は、これらのステッカーを車のバンパーに貼って走るのでしょう。「米国第一主義」のバンパーステッカーは迷彩柄で、トランプ支持の退役軍人は、特にこのステッカーを好むでしょう。本稿では、この雑誌の内容を分析します。

トランプが果たした11の選挙公約

 読者の皆さんは、この一年間でトランプ大統領が果たした選挙公約について問いかけられたら何を挙げますか。『トランプ・アニバーサリー・コレクション』では、以下の11を取り挙げています。

① 連邦最高裁判事任命
② 「パリ協定」からの離脱
③ 移民に対する厳格な審査
④ 不法移民に対する厳重な取り締まり
⑤ 石炭産業の復活
⑥ 堅調な米株式市場
⑦ 雇用の救済
⑧ 環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退
⑨ 「ロケットマン」に対する対抗措置
⑩ アフガン戦争に対する関与
⑪ 好戦的な言葉

 まず、トップに挙がっているのが連邦最高裁判事任命です。上の11の中で、米メディアが唯一成果として挙げるのは、トランプ大統領が保守派のニール・ゴーサッチ氏を連邦最高裁判事に任命できたことです。

 次に、「パリ協定」離脱です。トランプ大統領は、雇用創出を地球温暖化よりも優先し、「パリ協定」は経済に対する脅威とみなしました。実際、筆者が南部サウスカロライナ州チャールストンでヒアリング調査を行った際、同大統領の支持基盤の一角を成す保守派の市民運動「ティーパーティー」のメンバーである白人男性の運動家は、「地球温暖化は、リベラル派や科学者のでっち上げだ」と主張して、まったく信じていませんでした。

 トランプ大統領の長女で大統領補佐官のイバンカ氏は、パリ協定離脱に反対したと言われていますが、6月1日、ホワイトハウスのローズガーデンで同大統領は離脱宣言をしました。その結果、地球温暖化対策に関し、米国はリーダーシップを放棄したとして非難を浴びましたが、支持基盤は成果として捉えています。

移民政策の成果

 『トランプ・アニバーサリー・コレクション』は、移民に対する厳格な審査並びに不法移民に対する厳重な取り締まりを、トランプ大統領が果たした選挙公約とみています。米移民関税執行局(ICE)は、2017年1月から3月中旬までに21,362人の移民を逮捕しました。

 トランプ大統領は演説の中で、メキシコとの国境を不法に超えて、逮捕された不法移民数が2016年と比較すると、53%まで減少したと強調しています。ただ、選挙公約の目玉であった国境の壁建設は完成していません。

石炭産業の復活

 選挙期間中、トランプ候補(当時)は前政権によって「忘れられた人々」ないし「無視された人々」のために戦うことを誓いました。同候補は、忘れられた人々に南部ウエストバージニア州、中西部オハイオ州及び東部ペンシルべニア州の炭鉱労働者を含め、石炭産業の保護を選挙公約に掲げました。

 そのうえで、同候補はオバマ前政権が地球温暖化対策として導入をした二酸化炭素排出量の規制によって、炭鉱労働者の暮らしが犠牲になったと主張しました。支持者を集めた集会では、自ら白色のヘルメットをかぶり、シャベルで石炭を掘る動作をしてみせることによって、会場を沸かせて、石炭産業の復活を訴えました。3月28日、トランプ大統領はオバマ前大統領が導入した規制を撤廃する大統領令に署名をして、公約を果たしました。

経済と貿易における選挙公約の実現

 トランプ大統領は、自身のツイッター及び演説で、米株式市場の株高及び約4%の失業率を成果として繰り返し強調しています。選挙期間中、ワシントンの政治家が悪い取引を行ったので、米国内の製造業がメキシコや中国に移転してしまったと議論し、雇用を守ることを公約に掲げました。実際、メキシコ移転を計画していた中西部インディアナ州にある空調大手「キャリア」を米国内に留めることに成功しています。

 トランプ大統領と一体化している熱狂的な支持者、所謂トランプ信者からすれば、環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退は、選挙公約の遂行であることは間違いありません。トランプ大統領は、中国の影響力に対抗するために、他のアジア諸国と協力して自由貿易圏を作るこの協定から離脱したのです。その結果、アジア太平洋地域における中国の影響力が拡大しても、トランプ大統領は米国の雇用を守るために決断したTPP離脱に誇りを持っています。

外交・安全保障と好戦的な言葉

 『トランプ・アニバーサリー・コレクション』は、2月にホワイトハウスで行われた日米首脳会談の際、トランプ大統領が安倍晋三首相の右手を過剰なまでに強く握って握手をした写真を掲載しています。北朝鮮に対する日米の結束をアピールするには、とてもインパクトがある写真だからです。

 そのうえで、同雑誌はトランプ大統領のロケットマン(金正恩朝鮮労働党委員長)に対する「世界が見たこともないような炎と激怒に直面するだとう」という脅迫ともとれる発言を評価しています。同大統領が自身のツイッターに投稿した「北朝鮮が愚かな行動に出た場合、軍事的解決の準備は万端だ」という好戦的な言葉を、記憶するべきものとして引用もしています。確かに、ワシントンにはトランプ大統領の好戦的な言葉が、第3次世界大戦を引き起こしてしまうのではないかという強い懸念がある一方で、北朝鮮に対する抑止力になっているという肯定的な見方もあります。

 さらに、同雑誌はトランプ大統領のアフガン戦略についても言及しています。同大統領は、選挙期間中、アフガニスタンからの米軍撤退を支持していました。

 ところが、8月21日にワシントン郊外で行った演説で、約16年続いているアフガン戦争に対して、「性急な撤退によって、過激派組織『イスラム国』(IS)やアルカイダといったテロリストが空白を埋めてしまう」と警告し、米軍部隊の増派を発表しました。実際は、選挙公約に反するのですが、『トランプ・アニバーサリー・コレクション』は、この決断を選挙公約遂行と位置づけているのです。

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