世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月20日

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 戦略には、まずもって、正確な情勢認識が不可欠である。その点、2018年版のNDSの「安全保障上の最大の関心事はテロではなく国家間の競争である」との認識は適切である。さらに本文では「米国の繁栄と安全にとり中心的な挑戦は、修正主義勢力(注:中国とロシア)による長期的、戦略的競争である」とも明言している。その通りであろう。今回のNDSの認識は、国際秩序、戦争、平和を決定するのは国家間のパワー・ポリティクスであるという当然の現実に立ち返ったものと評価できる。

 9・11の後、その衝撃があまりにも大きかったせいもあろうが、テロとの戦いに力点が置かれ過ぎてきた。しかし、その間、中国は大規模な軍拡を敢行し海洋進出を強め、ロシアはジョージアやウクライナで侵略的行為をするなどしている。国家間の戦略的競争は存在したにもかかわらず、それを直視してこなかった。オバマ政権は、米ロ関係の「リセット」や、アジアへの軸足移動の掛け声倒れなどで、かえって中国やロシアを増長させたように思われる。

 今回のNDSは、戦略環境について正しい認識を示した点だけでも評価に値するが、具体的なアプローチも常識的で妥当である。

 まず、米軍の能力向上の面では、核兵器、サイバー及び宇宙における能力、C4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察)能力、ミサイル防衛の強化などである。このうち、サイバー空間における国際的ルールは未確立の部分が多い。NATOがサイバー空間の国際法について研究した文書「タリン・マニュアル」を発表するなどしてリードしているが、日米間でもよく協議する必要があるのではないか。

 2番目の柱は、同盟とパートナーシップ構造である。これには、インド太平洋における同盟とパートナーシップの拡大、NATO同盟の強化、中東における永続的なコアリションの形成、西半球における優位の維持、アフリカにおけるテロ対処支援が含まれる。インド太平洋における同盟とパートナーシップは、我が国が精力的に取り組んでいる日米豪印の防衛協力、「自由で開かれたインド太平洋戦略」などとも整合的であり、当然、歓迎できる。NATO同盟の強化についてのくだりでは、NATO条約第5条(相互防衛)へのコミットメントが死活的に重要である、と述べている。トランプは就任当初、NATO条約第5条へのコミットメントを明言しようとせず問題となった。そうした懸念を払しょくする意図と思われ、よく気を配って書かれた文書であるとの印象を受ける。

 ただ、一つの大きな懸念材料として、予算の問題がある。マティス国防長官はNDS発表の記者会見で、「議会は予算決定の運転席に座るべきで、予算管理法の観客席に座っているべきではない。米軍の優位を維持するには予測可能な予算が必要だ」と述べている。

  
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