2024年12月22日(日)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2018年3月7日

 資源の観点からみるとコバルト(前回号『アップルはなぜアフリカのコバルトを買い占めるのか?』参照)も、リチウムも、資源制約があるため、リチウムイオン電池(LIB)市場への大量の安定供給は難しい。LIBが正常に生産できないと電気自動車(EV)の普及は挫折するかもしれない。前回はコバルトの資源問題について書いたが、今回はもう一つの深刻なリチウム資源について書いてみたい。

リチウム資源となるボリビア・ウユニ塩湖のかん水(Mauro_Repossini/iStock)

 まず、初めになぜEVが世界中で持てはやされるのかを解明することから始めたい。米カリフォルニア州で始まったZEV規制(加州で一定台数以上の自動車を販売するメーカーは、そのうちの一定割合を、排ガスをいっさい出さないEVや燃料電池車にしないといけない)が世界的に広がり始めた。

 多額の補助金を出し、自国のEVメーカーを育成しようとするカリフォルニア州や中国、または、自動車産業を持たないノルウェー、オランダといった先進国での市場拡大がこれまでのトレンドであったといえる。

 これに対して、フランス、イギリスでも将来的なガソリン車販売の禁止を打ち出した。いずれの国にもガソリン車を製造販売する企業があり、EV市場において競争優位性が高いわけでもない。つまり、EV市場の成長を見込んで「俺にも一枚かませろ」と参入する国や企業が増えているから、EVの普及が従来想定された以上に加速しているのだ。

 こうしたトレンドは、米・テスラ社の急成長、また、中国市場の急拡大、それに追随する日欧米企業によるEVシフトにより決定的なトレンドになっている。

 2017年7月末、米・テスラは電気自動車の新型「モデル3」の出荷を開始した。モデル3は、3万5000ドルで販売され、高級なガソリン車と同等の金額で購入できる同社初の“大衆車”だ。16年3月に発表から現在までに50万台もの予約があるという。

 「50万台」という数字は、米国の乗用車の販売台数の3%程度でしかないが、米国の2016年までの電気自動車の累計販売台数が、56万台(推計)であることから、テスラ「モデル3」のインパクトの大きさがうかがえる。ただし、モデル3は生産遅れが深刻になり、同時に管理部門のリストラを行うなど、市場の盛り上がりほど順風満帆とはいえない。さらに本格的な普及となれば、販売済みの車両の修理・点検といったアフターサービスの充実も整備することも必要になる。

 一方中国でも、政府による強力な補助金政策によって、2016年に米国を抜いて、世界最大のEV市場となった。年間の販売台数は40万台まで増加している。充電インフラも増強する体制を整えており、EVの普及は、産業振興、大気汚染の緩和の両面から、国を挙げての一大プロジェクトといえる。

 しかし、中国政府の普及策はあまりに拙速といえる。年間2800万台を販売する中国市場において、2018年のEV販売割合を前年の2%未満から、8%までにするとの目標を掲げている。自動車メーカーは相次いで増産計画を打ち出し、2020年には700万台もの生産が可能になる。一方でコア技術であるリチウムイオン電池や、急速充電インフラ等は、まだまだ安全とは言い難い状況にある。

 現在のところ、一台あたり約100万円の補助金を購入者に支給し、需要家の関心を引いているものの、2020年までに段階的に、補助金は廃止されるとのことで、自動車メーカーにとっては、高価なEVの販売比率の向上だけが残るという不安が付きまとっている。

 さてここからが本論である。

 EVの製造コストの約半分は車載用の電池のコストである。米国のテスラが最新車種のモデル3を約400万円で売り出すが電池についてはパナソニックが独占供給することになっている。電池工場の投資総額は約5000億円で、テスラとパナソニックの共同出資である。

 そこで問題となるのがリチウム電池市場の急拡大である。欧米市場も中国市場もEV開発を国家規模で優先する方向を出しているため、ガソリン車の将来は暗いといわれている。ハイブリッド車の技術のない日本以外の国家は環境問題を前面に押し出し、ガソリン車だけでなくハイブリッド車も税制面で不利になるような方針を検討しているようだ。

 要するに「日本叩き」という側面もある。日本の自動車産業はハイブリッド車でも世界を席巻している。比較的EVの技術開発は手掛けやすいが、今から日本車を乗り越えることはできそうもないので世界中で環境問題を言い訳にしてEVの開発ブームを作り出したのではないか? と勘繰っているのは筆者だけではないはずだ。

 さて、こうした方向性の大前提はリチウムイオン電池の増産であるが、はたして原料面での安定供給に問題はないのだろうか? 本稿では意外に脆弱なリチウム資源について考察してみたい。


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