赤坂英一の野球丸

2018年3月7日

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 こんなことをやっていたら、ボクシングはスポーツとして終わってしまう。いや、実はとっくの昔に終わっているのかもしれない。改めてそう痛感させられたのが、1日に前WBCバンタム級王者・山中慎介が2回TKO負けを喫したタイトルマッチである。

(Dan-Edwards/iStock)

 この試合、王者のルイス・ネリがバンタム級の体重(52・163~53・524㎏)まで体重を落とせず、前日に2度の軽量で1・3㎏オーバー。その場で王座の剥奪が決まり、山中が思わず、「ふざけんな、おまえ!」とネリを怒鳴りつけたほどだ。が、ネリのほうはどこ吹く風で、試合当日は60・1㎏まで〝増量〟してリングに登場。山中も59・2㎏まで体重を増やしていたものの、負けは最初から決まっていたようなものだった。

 たかが約1㎏と思われるかもしれないが、ボクシングにおける体重差はわれわれ素人が想像する以上に大きい。私は元主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)ミニマム級(47・627㎏以下)世界王者・高山勝成が、練習の一環として1階級上のライトフライ級(47・627超~48・988㎏)のボクサーと行ったスパーリングを見たことがある。技術でははるかに高山が上回っていたにもかかわらず、相手のパンチが一発でも入ると、意外なくらいはっきりとぐらついていた。

 僅か1㎏の違いで、それぐらい差がつくのが〝階級スポーツ〟ボクシングである。高山のスパーリングを一緒に見ていた駆け出しのボクサーは、「体重差って本当に残酷ですね」と表情を硬くしていたものだ。

 だから、山中本人はもちろん陣営の関係者も、プロモーターの本田明彦・帝拳ジム会長も、今回の結果は十分予想できたはず。本来なら試合を中止するべきだったにもかかわらず、勝てば山中が王者に返り咲けるからと、両国国技館での興行、日本テレビの全国中継優先で強行された。こういういい加減でデタラメな現状が、私が「ボクシングは終わっている」と考える最大の要因でもある。

 いい加減でデタラメと言えば、ネリが昨年8月15日、山中に4回TKO勝ちしてベルトを奪った試合もそうだった。薬物検査によって禁止薬物のジルパテロールの陽性反応が認められたにもかかわらず、WBCのマウリシオ・スライマン会長は「私はドーピング問題などなかったと確信している。(検査結果が陽性でも)ネリが意図的に摂取したと認められる証拠はない」などと強弁。「ネリはクリーンだ」と〝疑惑の王者〟を擁護している。

 しかし、日本のファンはスライマン会長が思っているほど、無知でもお人好しでもない。昨年、山中がネリに敗れた試合のテレビ視聴率は関東地区で平均10・8%、瞬間最高16・5%(ビデオリサーチ調べ。以下、数字はすべて同)だった。今回の再戦はネリのウエートオーバーで関心が薄れたらしく、平均が関東9・6%、関西10・1%どまり。関東の瞬間最高は14・5%だったが、これは山中とネリが打ち合っていた1回で、山中が4度目のダウンを喫した2回の数字ではない。はっきり言えば、テレビ桟敷の視聴者の関心度はその程度だった、ということである。

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