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2018年3月7日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞前論説委員長

産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 平昌五輪以来、朝鮮半島情勢があわただしさを増している。北朝鮮が開会式に独裁者の実妹を派遣し、南北首脳会談を提案、4月末に実現することになった。米国との対話にも、北朝鮮は前向きな姿勢を示している。

 政治がからむと、「平和の祭典」に暗い影を落とすが、今回に限ってみれば、北朝鮮の真意はともかく、核問題解決への期待を高める効果をもたらした。しかし、南北会談は実現しても、最大焦点の米朝対話のハードルはいぜん高い。双方の思惑の隔たりは大きく、実現は不透明で、むしろ危険な状況に陥るとみる専門家は少なくない。トランプ大統領も3月6日、ツイッターで「ぬか喜びかもしれない」と楽観を戒めた。

(estherpoon/iStock)

「米朝」模索の動きは昨年から

 詳細に報道されているので、繰り返しは避けるが、3月5日、北朝鮮を訪問した韓国の特使団と金正恩朝鮮労働党委員長との会談で、双方は南北首脳会談を4月末、軍事境界線のある板門店で行うことで合意した。北朝鮮は、米国との対話の用意のあることもあらためて鮮明にした。

 南北会談は、五輪開会式出席のため韓国を訪問した金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(ヨジョン)氏が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に手渡した正恩氏の親書の中で呼びかけた。

 閉会式に出席した朝鮮労働党の金英哲(キム・ヨンチョル)中央委員会副委員長は文大統領との会談で、米国との対話について水を向けられ、やはり「十分な用意がある」と表明している。
 
 米朝協議のめどは現時点ではたっていないが、米国内では昨年暮れ以来、対話を模索するような動きがくぶりつづけている。

 12月にティラーソン国務長官が、「前提条件なしで、会談を開く用意がある」との見解を示した。直後に「前提条件なし」は軌道修正したが、年明けにはトランプ大統領が、条件次第では金正恩委員長と電話で話し合ってもいいと表明、「対話を行うことは全く問題ない」とも述べた。しかし、条件が具体的に何であるかについては言及を避けた。

 ペンス副大統領も、五輪開会式出席後の帰国途上の機中で、米メディアのインタビューに答えて、「北朝鮮が対話を望むなら話をするだろう」と語った。副大統領の帰国後、氏の韓国滞在中に金与正氏らとの会談が予定されていながら、直前に北朝鮮側がキャンセルして実現を見なかったことも明らかにされた。

 北朝鮮の積極姿勢は、こうした一連の動きがある中で示されたため、期待、機運が高まるのは当然の成り行きだった。

前提条件に大きな隔たり

 しかし、ことはそう簡単ではない。前提条件なしで、とにもかくにもテーブルにつくということなら実現は困難ではないかもしれないが、それについては米国が否定しているから、やはり何らかの条件による環境整備が必要になろう。

 早稲田大学の李鐘元(リ・ジョンウォン)教授はさきに日本記者クラブで行った会見で、「南北首脳会談を補助エンジンとして米国を動かす思惑ではないか」として、北朝鮮の狙いはあくまで、米国との対話であることを強調。米国としては、ミサイル発射のモラトリアム(一定期間の停止)を前提条件として、交渉開始後に、核開発放棄につなげていくという狙いと分析した。
 
 米朝対話の実現性について、ソウルに駐在したこともあり、朝鮮半島情勢に詳しい日本の元外交官は、核開発の凍結、それに伴うIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れ、ICBM(大陸間弾道弾)の発射実験凍結などを「入り口」とし、朝鮮半島の完全非核化を「出口」とするのが米国の方針であり、その条件が満たされない場合、話し合いに応じることはありえないと予測。「このタイミングでの実現するかどうか」と率直に疑問を呈する。

 3月1日夜のトランプ大統領と文大統領の電話協議で、「いかなる話し合いも、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化という目的が伴わなければならない」との認識で一致したのも、〝出口〟が見えなければ対話に応じないという米国の強い姿勢の表れとみていい。

 ただ、この元外交官は、いずれ話し合いの時期が来ると指摘、「長丁場の交渉になる。核放棄とあわせて、制裁の解除、経済協力、(北朝鮮と日米韓などの)外交関係樹立、日本人拉致被害者問題などが広範に話し合われるだろう」と分析する。 

 一方、朝鮮戦争での不明米兵の遺骨収集などで北朝鮮を訪問したこともある米国務省の元高官は筆者の取材に対し、「北朝鮮が非核化について、米国との話し合いに応じることはあり得ない。かれらは核開発を絶対に中止しない」と断言する。そのうえで、「人道支援や貿易拡大、北朝鮮をNPT(核拡散防止条約)の核保有国と認めるかということについてなら、交渉に応じるだろう」と、その身勝手な方針を予測する。

 「平昌五輪を機に、韓国と北朝鮮の関係が改善したようにみえても、表面だけのことだ。制裁に苦しむ北朝鮮は韓国との関係を改善して国際社会にいい印象を与えたかったし、韓国は北朝鮮を取り込んで、テロで五輪が妨害されるという事態を避けることができた。双方の思惑が一致した結果だ」という極めて冷めた見方も披歴している。

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