この一年で一番高騰したレアメタル資源はタンタルである。タンタルは意外に目立たないがもっとも現代のIoT時代に不可欠な元素なのである。前回『地球を破壊するEV、レアメタル王がそのカラクリを解く』では、リチウムイオン電池の増産とリチウム資源の脆弱さについて考察したが、タンタル資源について云えば資源確保の問題点と遍在性はりリチウム資源の比ではない。資源価格の上げ幅でも過去1年を比較するとコバルトは142.3%で第3位、第2位が150.9%のAPT(タングステン)でタンタル鉱石は155.2%の第1位である(AMJのデータ)。
タンタルとは何か?
ではタンタルは何に利用されるのか? 特にタンタルの主用途であるタンタルコンデンサはノートPC、タブレットPC及びスマートフォン等の情報通信機器をはじめ、液晶テレビ、デジタルカメラ、ビデオカメラなどデジタル家電や自動車部品等に使用される。
タンタルコンデンサ以外には、耐熱・耐食材料、合金添加物、スパッタリングターゲット等に使用されている。また、タンタルの酸化物や炭化物などの化合物は、切削工具、光学レンズ、さらに近年はSAW(表面弾性波)フィルタも主要な用途となっている。
産業情報調査会によればHEV/EV を含めた自動車の生産は堅調に推移しており、ADAS(先進運転支援システム) などの普及で車の電装化はさらに加速している。スマートフォンについても高機能化は進展し、電子部品の搭載数量が増加している。このような状況を受けて、コンデンサ市場は2016 年以降、平均年率約3.7%で堅調に推移し、2021年には2兆4000億円台に達すると予測される。そのコンデンサ市場の世界需要の約4割以上がタンタルコンデンサである。
まさにタンタルは電子分野の高機能化時代の申し子なのである。
タンタルに罪があるわけじゃあないが過去にはあまりにも血塗られた歴史がある。資源としてタンタルが遍在しているのはルワンダ、DRコンゴである。この2カ国だけで世界生産量の60%を占めるが供給量の安定性は保証されてはいない。
さて、DRC(コンゴ民主主義共和国)は今でも国連軍が常駐しているが、いまだに紛争が絶えないのは資源を巡る各国の思惑が渦巻いているからだ。政治的にも反政府軍の存在は無視できないようだ。
実はDRCやルワンダには、搾取を続けた西欧列強の侵略主義の歴史があることを、忘れてはならない。人類史に残るルワンダの大量虐殺事件は1974年にルワンダで起こった。しかし史上最悪の植民地支配を続けた宗主国ベルギーによるレオポルド3世時代には、3000万人の大量殺戮が起こされたと報告されている。これほどまでに熾烈な歴史の中で地下資源があまりにも豊富であることからDRCへの陰に隠れた資源戦争がくすぶっているのである。
タンタルは、DRC及びその周辺国の生産が多いことから、紛争鉱物の対象となっている。米国では、2010年にDRC及びその周辺国で生産される紛争鉱物(錫、タンタル、タングステン、金)の使用の有無を調査し、情報公開義務を課すドッド・フランク法第1502条が可決された。
これはあくまでアメリカの法律における定義であり、EUやOECDでは、その定義が異なるのだが、アメリカの金融法が全世界の取引に影響が及ぶので、無視するわけにはいかない。少し前までは中国やインドは気にしなかったが、グローバル時代の今ではそうもいかなくなった。その結果、コンフリクトミネラル(紛争鉱物)という言葉が独り歩きするようになり、紛争地域で人権侵害、環境破壊、汚職など、不正に関わる組織の資金源となっている鉱物を指すようになった。
「紛争鉱物」という言葉は、何となく我々日本人には嫌なイメージがつきまとうので「さわらぬ神にたたりなし」とばかりにこの地域にはあまり近づきたくもないので、できるだけ安全圏から最低限必要な数量だけを扱おうとする傾向があるようだ。
しかし、筆者自身はかつてこれらのレアメタルで大火傷をした経験があるので、2016年にルワンダに駐在員事務所を設置してタンタルやタングステンや錫の安定供給体制を確立することにした。現在、日本人駐在員の山田耕平氏が家族とともにルワンダのキガリで生活をしているが、この話題は別の機会にぜひ投稿する予定である。
災害は忘れたころにやってくると言うが、20年前のタンタル事件を紹介したい。実は、タンタルは、ITバブルの時に30ドル前後の相場が370ドル/Lbまで高騰したことがある。そのころには日本企業がアフリカ(DRC)からの供給ルートがなかったので、宗主国のベルギーや英国やオランダ経由で手当てしていた。ロンドンのメタル雑誌の相場を無批判に信じて欧州トレーダーのいわれるままに買わされていたのが実態であった。