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2018年4月2日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 まるで残酷なスパイ映画のようだ。英国南西部の町のショッピングセンターで3月4日、ロシアの元情報機関員父娘が、意識不明になっているところを発見された。何者かに、筋肉の機能を阻害する神経剤の毒を盛られたとみられ、父親はいまなお生死の境をさまよっている。ロシアの関与が濃厚と断定した英国は直ちに外交官を追放し、米国やEU(欧州連合)各国もこれに呼応した。ロシアも対抗、派手な外交官の追放合戦に発展している。

 米英同様G7(主要国首脳会議)の一員である日本は、事件を非難するものの、ロシアに対する一切の措置を控えている。このまま頬かむりで対ロ関係の進展だけを追求するのか、いずれ何らかの手段をとるのか。事件はしばらくは尾を引くとみられるが、懸念されるのは日本が各国から制裁への共同歩調を迫られることだ。拒否すれば、国際社会で孤立するし、制裁に同調すればロシアの反発を招く。安倍政権にとって、厄介で頭の痛い外交問題になりそうだ。
 
 事件は、英南西部、ソールズベリーで起きた。ショッピングセンターのベンチで意識を失って倒れていたのは、ロシア参謀本部情報総局(GRU)のセルゲイ・スクリパリ元大佐(66)と娘のユリアさん。病院で手当てを受けている。幸いユリアさんは今月29日になって意識を回復し、危機を脱したが、父親は依然深刻な状態が続いている。

(golibtolibov/iStock)

ロシアは関与認めず対抗手段

 英国のメイ首相は事件後、下院での演説で、使用された毒物は旧ソ連が1970年代から80年代に開発した「ノビチョク」という神経剤であり、「非常に高い可能性でロシアが関与していた」と非難した。

 3月28日になって、元大佐の自宅表玄関のドアから、「これまででもっとも高濃度の神経剤の痕跡が検出された」(ロンドン警視庁)と発表され、父娘はドアで接触したとみられている。
 
 英政府は、ロシアの情報機関の犯行だったならば、主権を侵害されたことになるため、
直ちに強硬な手段をとった。英国内にいる23人のロシア外交官を、申告せずに英国内で情報活動を行ったとして、国内から追放した。 

 あわせて、ロシア政府に対して、事件に対する詳細な説明を求めた。
 
 米国は、英国の倍以上の60人のロシア外交官を追放。ワシントンやニューヨークの国連代表部の外交官らが対象で、航空機産業が近くにあるシアトルの総領事館の閉鎖も命じた。

 NATO(北大西洋条約機構)もロシア代表部の外交官クラスの退去を求め、EU各国も同調した。ロシア外交官の追放を決めたのは3月27日現在でアイルランド、モルドバといった国も含め27カ国・機関にのぼっている。
 
 一方、自らの関与について「ナンセンスだ。われわれにノビチョクはない」(プーチン大統領)と否定するロシアが黙っているはずがない。ロシア国内の英外交官のうち、追放ロシア外交官と同数の23人の退去を求め、サンクトペテルブルクの英国総領事館の閉鎖を命じた。米国に対しては、やはり60人を追放、英国に対すると同様にサンクトペテルブルク総領事館を閉鎖させた。
 
 今回の事件は2006年に同じ英国で起きたロシアの元情報機関員暗殺事件を想起させる。ロシア保安局(FSB)の元中佐、アレクサンドル・リトビネンコ氏が、ロンドンのホテルで飲み物に放射性物質ポロニウム210を混入され、それによって殺害された。英内務省の調査委員会は、「プーチン大統領が殺害を承認していたと考えられる」という調査結果を公表している。

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