進化する「食」

2018年4月17日

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 今後3年間の食と栄養のキーワードは、以下の3つになると、私は予測しています。

  1. 植物性たんぱく質
  2. オーガニック
  3. low FODMAP diet(ローフォドマップダイエット)

 栄養素、栽培法、食事療法と、それぞれまったく異なるカテゴリーですが、これらが相互に関連しながらトレンドを形成していくのではないでしょうか。なぜこのような予測を立てるのか。その理由は、アメリカ栄養士会にあります。

(stanciuc/iStock)

日本の一歩先を行く、世界最大の栄養会議

 「Food & Nutrition Conference & Expo」(FNCE)という催しが、年に1度アメリカで開催されています。

 主催は、栄養士、登録栄養士(日本の管理栄養士にあたる)、栄養学などの研究者、栄養士を目指す学生などで構成されるアメリカ栄養士会(Academy of Nutrition and Dietetics)です。FNCEはもともとアメリカ栄養士会の年次総会ですが、世界最大規模の栄養会議・展示会であることから、栄養士、登録栄養士、食や栄養に関する研究者、食品・飲料メーカーに従事する人たちが世界各国から参加しています。

 2017年10月にシカゴで開催されたFNCEは、アメリカ栄養士会の創立100周年記念でもありました。来場者は1万3000人に上り、会場では150余りの研究発表や教育セッション、料理デモなどが行われ、390ほどのブースで食品・飲料・健康関連企業や団体の新商品・サービスの展示を見ることができました。

 日本でも大規模な食品・飲料展が開催されており、その参加者や出店数はFNCEとは比べものにならないほどですが、FNCEは世界中の栄養と食品の専門家たちが科学的な研究やエビデンスに基づく取り組みを発表する場であると同時に、企業・団体の新商品に関する情報の交換・収集が同時に行える場でもあります。さらに職能団体であるアメリカ栄養士会が社会に向けて栄養士・登録栄養士の存在価値を広くアピールする場となっている点も日本の展示会とは大きく異なります。

 余談になりますが、2014年のFNCEのセッションでは、「栄養士・登録栄養士が知っておくべきコーシェル食・ハラール食について」「LGBTのための栄養的配慮」といったテーマが取り上げられていました。これには正直なところ驚きました。日本にいると気がつかないテーマですが、多様な民族が生活するアメリカでは俎上に載せるべきテーマだったのです。そして今、観光立国を目指す日本においても、ハラールやコーシェルといった宗教的な配慮やLGBTが抱える健康問題への配慮(※1)については、食品関係者、観光産業に携わる者、医療従事が知っておくべき事柄になっています。

 私はアメリカ栄養士会の会員で、この催しに参加するようになって、すでに20年が過ぎようとしています。残念ながら、日本からの参加者は他の国に比べて少ないのが現状ですが、私自身は参加するたびにその後の食のトレンドを発見し、海外の食の専門家とのネットワークを構築するという点で、非常に重要な機会になっています。

世界の食料市場から注目される植物性たんぱく質

 そろそろ本題に入りましょう。

植物性食品推奨団体のブース

 植物性たんぱく質がなぜ注目されるのか。予測の一番目に挙げた項目です。これも2014年のアメリカ栄養士会に遡る必要があります。

 この年、アメリカ栄養士会では、世界的に食環境が変化するなか、栄養士として何をすべきかが盛んに議論されるようになり、会員向けのウェビナー(ウェブとセミナーをかけた言葉ですが、アメリカでは当たり前のように使われている言葉です)を通じて農業と食・栄養の関係に関するテーマを4回のシリーズで取り上げました。

 また、そのフォローアップとして、2014年に「Plentiful, Nutrient-Dense Food for the World: A Guide for Registered Dietitian Nutritionists」というテーマでシンンポジウムを開催し、世界の食料安全保障に影響を及ぼしている以下の5つの課題について、認識を深め、意見交換などが行われました。

  1. 食料安全保障・貧困・栄養不良:世界的な人口増加による食料需要の増大に加えて、全人口72億人(2014年版『世界人口白書』)のうち12億人が1日あたり1.25ドル以下の貧しい生活を強いられており、歴史的目標である2030年までの貧困撲滅には依然大きなハードルがある。世界の約8億人がエネルギー摂取不足、約20億人がビタミンやミネラルなどの微量栄養素不足に陥っている。
  2. 食料需要の増大:2015年には73億人だった世界人口が、2050年には97億人に上るという国連の予測があるが、すべての人が安全かつ栄養価に富む食料を十分に得られるようにする必要がある。また、世界的な経済の発展による中間所得層の増加に伴い、動物性食品の肉、牛乳・乳製品のほか、食用油や野菜、果物などの消費量が増大する。
  3. 水資源・土地資源の制約:食料需要の増大に応えるためには、多くの淡水(真水)や土地が必要となる。限られた水資源や土地資源をどう活用するかが地球環境の持続性に大きく影響を及ぼす。
  4. フードシステムの生産性:食用のために生産される食料の1/3が損失・破棄されるなか、土地の有効活用や遺伝子組み換え作物の発展の可能性、収穫後の農薬処理による損失の削減など、持続可能なフードシステムの達成に向けた取り組みが求められている。
  5. 農業ベースの革新:単位面積当たりの生産量の増大と農産物の質的向上のために、バイオテクノロジーを活用した栄養強化作物の栽培や、栽培技術の革新など世界の食料安全保障のために果たすべき役割は大きいことを理解する。

 これらの課題に応えるため、アメリカ栄養士会では、持続可能な農業、フードシステム、健康教育などを実現するため、企業などの関係者と協業し、すべての国民が栄養価の高い食品を口にできるよう働きかけを行っていくことを結論としています。

 こうした背景から、今回のFNCEのセッションでも、「貧困」「栄養不良」「食料安全保障」をテーマにしたものが多かったのだと思われます。

 植物性たんぱく質が注目される要因は主に2つあります。1つ目は、世界的に「持続可能性」を求める大きな潮流のなかで、家畜の飼育数が減ればその分耕作地が増え、より多くの穀物を効率よく確保することで食糧問題に貢献できる。2つ目は、家畜を減らすことで肉食も減少すれば、牛のげっぷなどから排泄されるメタンガスを減らし、地球温暖化の防止につながる。こうしたことを理由に、動物性たんぱく質から植物性たんぱく質へ移行することが、個人レベルで環境保護や食料問題に貢献できるとして見直されるようになったというわけです。

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