昨年から、尖閣諸島問題で揺れる日本に畳み掛けるかのように、日本の感情を逆なでするロシアの北方領土問題に関する動きが相次いでいる。
要人の訪問
昨年11月1日には、メドヴェージェフ大統領が国後島を訪問、12月13日にはシュワロフ第1副首相が国後島と択捉島を訪問、今年の1月20日から21日にはブルガコフ国防次官が国後島と択捉島を訪問、そして1月31日から 2月1日にはバサルギン地域発展相が国後島と択捉島を訪問し、2月2日には、セルジュコフ国防相が国後島と択捉島を訪問すると同時に、歯舞島を上空から視察した。さらに、昨年、米国で逮捕され、美人スパイとして話題になったアンナ・チャップマン氏も、最大与党「統一ロシア」の青年組織「若き親衛隊」の代表団に加わり、3月に国後島と択捉島のみならず、色丹島を訪問して領有権を誇示すると報じられている。また、プーチン首相が訪問するという噂もある。
このように要人やチャップマン氏などの訪問は、北方領土問題に対する国民の関心を高める上で極めて有益である。メドヴェージェフ大統領は、北方領土の発展に注意を向けるのが閣僚らの訪問の目的だと述べているが、北方領土に訪問することが、政権への忠誠心を示すための「踏み絵」になってきているという者さえいる。
そして、実際に多額の資金が投じられ、インフラ整備も急激に進められている中で、ロシア人にとって北方領土がより住みやすく身近な地になりつつある。このことは、ロシアが北方領土の実効支配を強化している動きの一部に過ぎず、後述するように、ロシアは様々な手段を用いて、実効支配を強化しているのである。
ロシアのナショナリズムに「火」
さらに、2月7日の「北方領土の日」に、菅首相がメドヴェージェフ大統領の国後島訪問を「許し難い暴挙」と非難したことは、ロシア政府や人民を激昂させた。ロシア側は激しく反発し、政治レベルでは後述のように、交渉に対する姿勢を顕著に硬化させた。
ロシアはそもそも「北方領土の日」に反発してきた。そのため、当日、北方領土を事実上管轄するロシア極東サハリン州の州都ユジノサハリンスクの日本総領事館前では、日本の「北方領土の日」に抗議する集会が行われた。
また、当日、日本のロシア大使館前で右翼活動家がロシア国旗を侮辱する行為を行ったことやロシア大使館に銃弾が送付されてきたことに対し、ロシア側は激しい怒りを表明し、刑事事件として調査することを要求した。
そして、同日以降、ロシアの日本大使館の周囲では、プーチン首相支持の若者組織「ナーシ」と、最大与党「統一ロシア」傘下の「若き親衛隊」の活動家による、菅首相に謝罪を要求する抗議デモが連日行われた。彼らは、北方領土をロシア領と明記したロシアの地図と教科書を大使館経由で首相に渡そうとしたが、拒否されたため、郵送すると述べている。
そして、北方領土のロシア島民の意識も、ここ20年で大きく変わったと言われ、以前は、「日本領になったほうが、生活が守られる」と考える人も少なくなかったようだが、現在では90%以上が領土返還に反対だという。さらに、ロシアの中立系世論調査機関「レバダ・センター」が2月18日に発表した調査結果によれば、北方領土の日本への返還に反対するロシア国民は90%に達し、1998年の71%に比べて大きく増加したという。他方、北方領土を日本に返還しても良いとする意見は4%にとどまり、98年の11%からは大きく減ってしまい、日本への否定的な見解もぐっと増したようだ。