前回はアルゴリズムの偏見・ブラックボックス化の問題を論じた。恣意的なアルゴリズムが我々に悪影響を及ぼすのであれば、我々の預かり知らぬ領域で、日々社会に亀裂が走っていることとなる。少なくとも問題が可視化されるような処置が必要とされなければならないだろう。
今回も前回同様、我々が目にすることのなかった領域で行われていた問題を考えたい。それはFacebookから得られたデータが民主主義を破壊するのではないか、というものである。アルゴリズムと同様、情報は我々が取り扱い不可能なまでに膨れ上がり、また恣意的な操作を目論む人々も現れる。2018年はメディアの健全化が議論されているが、SNSもインターネットもここ数年が正念場なのではないか。そう思わせるほどまで重要な問題について、今回は考えていきたい。
トランプの選挙に貢献
ケンブリッジ・アナリティカとは?
今回の事件の発端は、2013年にイギリスで設立されたデータ分析企業「ケンブリッジ・アナリティカ(以下CA)」である。設立にあたっては、保守系の政治運動への資金提供で知られる、ヘッジファンドの共同CEOであるロバート・マーサーが1500万ドルを提供。さらにトランプの選対本部長であり、2017年8月に更迭されるまでトランプの右腕と言われたスティーブ・バノンも副社長を務めていた企業である。
CAは2016年のイギリスのEU脱退に関する国民投票では離脱派として、また2016年のアメリカ大統領選ではトランプ陣営に立って選挙コンサルティングを行っている。今回はこのCAが、Facebookの情報を不正に取得したことからはじまる。
すでに多くの報道がなされているが、改めて事件について簡単に説明しよう。まずケンブリッジ大学で心理学を研究するアレクサンドル・コーガン教授が、2014年にFacebook上で性格診断アプリ「this is your digital life」を作成し、約30万人のユーザーがアプリをインストール。彼はアプリを通してFacebookからユーザーデータを取得した。
これ自身は学術目的なので問題ないのだが、コーガンはこのデータをCAに不正に売却。CAはアプリから得られたユーザーデータを分析し、米大統領選に利用したといわれている。当時のFacebookの規約では、アプリを使ったユーザーの友達の情報も取得できることになっており(現在は規約を変更しており不可能)、30万人のユーザーの友達を含めると、およそ8700万人に及ぶユーザーの個人情報が取得されていたことになる。
この数字について当初報道では5000万人と言われていたが、その後の調査で8700万人にまで膨れ上がった。また最近では別のCA元作業員がイギリス議会の委員会において、複数のアプリを使用していたと証言。この数字はさらに大きくなる可能性も浮上している。ちなみに、日本でも10万人ほどがこの数字の中に含まれている。
CAは一連の報道に対し、コーガンからデータを入手したことは認めたものの、それが不適切なものであったことは知らなかったと主張。またデータも3000万人分であり、2015年にFacebookからデータの廃棄を求められた時に消去したとも述べている。この点については今後司法の場で問われることであろう。