前回はメディアの健全化は可能か、と題して2018年のメディア展望について議論した。YoutubeやFacebookは問題動画・投稿への対策を講じる必要性を感じているが、どのような形で実を結んでいくかについて、今後も注目が集まる。

 ところで、昨今IT企業が注目しているものに「音声」や「会話」といったキーワードが挙げられる。そこではスマートスピーカーなどの音声操作技術が議論される一方、実際、その潜在的な影響力についてはあまり議論されていないように思われる。今回はなぜIT企業が音声メディアに着目するかについて、議論したい。

(iStock/Aleutie)

鍵となるのは「目」ではなく「耳」

 2017年はスマートスピーカーが注目された年であり、その影響については2017年10月に本連載でも分析した。そこではテレビ広告のような視覚に訴える広告よりも、音声広告の方がユーザーの記憶に残るという調査を紹介した。音声(聴覚)を利用した広告は、目に見えないが故に想像力を刺激したり、また情報量が視覚に比較して限定されるため、必然的に集中しやすい、という特徴がある。だがより重要な点は、ユーザーがそれまで興味を持たなかった分野を、音声が開拓するというものだ。どういうことだろう。

 まず、ウェブサイトのように視覚を利用したメディアに接する時、ユーザーは視覚情報から自分の好き嫌いなものに瞬時に反応する。視覚情報は情報量が多いため、我々はショッピングサイトで商品を目にした瞬間、即座に見るべきものとそうでないものを無意識下で判断する。つまり好きなものだけを見るための脳内フィルターが働いているのだ。

 逆に言えば、興味のないものについてはすぐさま目に映らなくなるとも言える。我々は好きなものにだけ反応し、そうでないものは見落としがちだ。その意味で視覚メディアは、ユーザーの好きなものをアピールすることはできるが、そうでないものをアピールすることは性質上難しい、ということになる。

 他方、聴覚を用いるものは別の側面をみせる。耳から得られる情報量は、目に比較すればどうしても絶対量で劣る。例えばウェブサイトの広告は画面にいくつも掲載可能だが、音声広告はひとつの広告しか掲載できない。だが前述のように、それ故に音は心に残りやすく、またユーザーの想像力を刺激することも可能だ。

 例えば「会話」も音を使ったコミュニケーション技術のひとつだ。ビジネスにおける会話のメリットは、何が好きかを瞬時に判断する目とは異なり、自分が「何が好きだったのか」を理解させることが可能な点にある。