4月の新学期から、全国の公立小学校の5・6年生を対象に、年間35時間の外国語活動必修化がいよいよスタートする。以前からマスコミを賑わしてきたこの「小学校英語」に対して、当初から異議を唱える慶應義塾大学教授の大津由紀雄氏に、子どもたち、親、担任教師がどのような心構えをもってこの英語活動に臨むべきかをインタビュー。必修化直前のこの時期だからこそ、心構えだけでなくもっと本質的な議論をすべきだと警鐘を鳴らす。
――以前、小学校英語活動の実態をレポートし、(『それでもやるべき? 小学校英語』)その必要性に疑問を抱きました。なぜ大津先生が小学校英語に反対され続けているのか、改めてお考えをお聞かせ下さい。
大津由紀雄教授(以下大津教授):まず、誤解がないように言っておきますと、私は「子どもたちが英語を含めた外国語に触れること」には反対していません。現状のように、「コミュニケーション能力の素地を養う」という曖昧な目的を掲げ、子どもたちの英語嫌いや英語特別視を助長し、担任の先生たちに負担を課し、本質的な議論が十分でないまま行われているこの活動に、異議を唱えているのです。
一般の方はあまり気にしていないと思われますが、4月から始まるのは「小学校での外国語活動の必修化」です。つまり、必ずしも英語でなくてもよいのですが、実質ほとんどの学校で扱われているのは英語なのでここでは「英語活動」と呼びます。また、今回「必修化」というのは、文科省用語では「領域」といって、道徳と同じように数値による評価の必要がありません。数値による評価が必須となるのは「教科」であり、私が絶対的に避けなければならないと考えているのはこの「教科化」です。「教科化」こそ、現在の中学校英語を単に前倒しするということで、学校英語教育全体の姿が根本的に変わることになります。
混乱が続く現場
――必修化といえども小学校での英語活動において、担任の先生、ALT(Assistant Language Teacher)など現場はどのような問題を抱えているのでしょうか。
大津教授:文科省の方針では、活動を組み立てるのは担任の先生としています。担任の先生たちの努力は涙ぐましいとも言えるほどです。いかにして子どもたちを惹きつけるか、他教科で培ったスキルをフル活用し、一見すると以前よりも活動は順調に行われているように見えます。しかし、本質的な問題は何も解決されていません。
先日、京都で行われた「第7回全国小学校英語活動実践研究大会」へ行って来ました。そこである授業を見学したのですが、担任の先生が英語で書かれた手作りの時間割を指して、どの曜日が好きか英語で尋ねます。それに対して、子どもたちはもちろん英語で答えます。ここまでは練習していたのでスムーズな流れでした。しかしその後、当然「なぜその曜日が好きか」という理由を尋ねるのが会話として自然な流れですが、やりとりの仕方が担任の先生には分からない。“Why?”ぐらいは言えるかもしれませんが、それに子どもたちが答えられるはずがありません。このように、「英語」というあまりにも限られた資源の中でのコミュニケーションは、創造性がなく、子どもたちにとっても無益です。