ある意味、唐突に現れたともいえるボランタリーな専門家が、ツイッター上でここまで信頼を集めることができたのはなぜだろうか。それは冒頭にも記したように、私たちが知りたい情報をタイムリーに届けてくれたことが大きい。
中立的立場からのわかりやすい解説
政府や東電による福島第一原発に関する情報開示の遅さは、国民の信頼を損なう結果を招いた。むやみに混乱を招かないために、情報を慎重に精査し、なるべく安全性を強調したいという姿勢は理解できなくもない。だが、政府と保安院と東電で頻繁に発表内容が食い違い、テレビや新聞の報道もそれに引きずられる形で、情報は錯綜した。
一刻を争う事態を前に、まず私たちが知りたかったのは、自分たちの身の安全だ。しかし、単純に危険か安全かの二者択一を迫る質問は意味がなく、どのような根拠に基づいて、どの程度の危険が想定されるのか、利害に捉われない立場からわかりやすく解説してくれる情報を求めていたはずだ。
早野教授は、各地のモニタリングポストのデータをグラフ化したり、より詳しい専門家の批判や意見を募集するなど、一人よがりにならない姿勢を貫いてきた。分析する上でどんな情報が不足しているかを指摘しつつ、寄せられてきた専門家の分析を評価しながら、情報を編集するプロセスをオープンにすることで、見ている側に安心感をもたらしてくれた。
センセーショナリズムに捉われた既存メディア
ツイッターは2ちゃんねるのような匿名の掲示板と違い、実名や肩書き、顔写真などを公開することができる。そのうえ、過去のツイートを簡単に遡ることができるため、うかつに矛盾したことは言えない。「ネットの情報は、あとから編集できるので信用できない」という人もいるが、ツイッターはそれができない仕組みになっている。唯一できるのはツイートを削除することだが、納得できる説明もなく頻繁に削除する人は、周囲の指摘を受けて信用を失っていくのがオチだ。
早野教授も放射線の人体に与える影響に関する一連のツイートを後日削除しているが、それは、より専門的な東大病院放射線治療チームに「バトンを渡したから」と、納得できる理由を説明している。
テレビや新聞では、事が起きてから専門家が登場するまでに、どうしてもタイムラグが生じる。だが、ツイッターはリアルタイムに専門家の見解が見られるうえ、過去のツイートもアーカイブされているため、その人の信頼性を推し量ることもできるし、自分の都合の良いタイミングで引き出すことが可能だ。
また、冒頭にも記した「レベル7」への引き上げのように、メディアは本来正しい情報を伝えることを使命としているが、同時に営利を目的とした民間企業でもあるため、センセーショナルな話題ほど大々的に取りあげる傾向がある。ツイッターに登場したボランタリーな専門家はそういった制約を受けていないことで、今回多くの人の関心と信頼を集めることにつながったのだろう。
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