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2018年6月21日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 グーグル傘下のウェイモ(Waymo)は、米アリゾナ州フェニックスで、「early rider program」と呼ばれる無人タクシーの走行試験を続けている。プログラムに登録した世帯の住民は、日常的に無人タクシーを利用することができる。今年3月からは、万が一に備えたセーフティドライバーが搭乗しない、完全な無人タクシーが運行している。

 グーグルは2009年から自動運転車の開発プロジェクトをスタートさせたが、2016年に中断してソフトウェアの開発に特化したウェイモを分社化した。そして、ウェイモは、無人タクシーの会社になろうとしている。

 3月に走行試験中のウーバーの自動運転車が起こした歩行者死亡事故で、完全な自動運転への疑問の声も大きくなってはいるが、実現すれば、無人タクシーが世界の経済に与える影響は計り知れない。

(wildpixel/iStock)

なぜ「無人タクシー」なのか?

 日本のタクシードライバーの給与の大部分は、売上げの50%から60%の歩合制になっており変動費に分類される。そのため、変動費を削減してタクシー1台当たりの限界利益率(限界利益/売上)を向上させることは難しく、利益を増やすためには車両数を増やさなければならない。無人タクシーは、その変動費を大幅に削減することができる。

 米国のタクシー会社のビジネスモデルは、ドライバーに車両を貸与して対価を得るという単純なものだ。売上げから、ガソリン代とタクシー会社への支払いを差し引いた残りがドライバーの収入になる。無人タクシーになれば、車両を貸し出すドライバーがいなくなってしまう。

 ウーバーは、自社で車両を所有しない配車サービスの会社だ。自分の車両でタクシー営業をする個人ドライバーと顧客をマッチングするライドシェアで急成長しており、個人ドライバーから売上げの30%を手数料として徴収している。

 ウーバーも、フロントガラスにUBERというステッカーをつけた車両を増やして顧客の利便性を向上し、配車(マッチング)件数を増やすことが収益向上につながる。車両1台当たりの売上げが減っても、車両全体での売上げが増えればウーバーに入ってくる手数料も増える。

 しかし、それはドライバーにとってみれば大問題だ。ウーバーは、競合するリフト(Lift)との壮絶なドライバー争奪戦を繰り広げているが、競合のほうが稼げるとなればドライバーを奪われてしまう。

 増やしたドライバーの数に見合うだけの配車件数を稼ぎ、それをドライバーが納得できるように配分できる配車システム(スマホアプリ)が、顧客とドライバーの満足度を向上させ、売上げを増加させるために重要だ。

 ウーバーは、2015年から無人タクシーへの取り組みを始めた。個人ドライバーの車両に頼ったライドシェアビジネスは、収益性と量的拡大の可能性に限界があり、いずれ無人タクシーに破壊されてしまうと考えるのは自然だ。

 ウェイモは、アリゾナ州での商用サービス開始に向けて、クライスラー製のハイブリッドのミニバンを数千台購入する計画だったが、さらに、ジャガーと提携して自動運転の電気自動車「Jaguar I-PACE」を開発し、今後数年間で最大2万台を無人タクシーとして市場に投入すると発表している。

 例によって、収益を度外視した低料金で顧客を味方につけて先行し、勝者総取りを狙ってくるのではないか。

 ウーバーの業績は赤字が続いているが、2019年にIPOを計画しており、大量の無人タクシーを用意するための資金の調達は問題ないだろう。しかし、自動運転の技術面での遅れは否めない。死亡事故によって失った社会の信頼を取り戻し、遅れを挽回することができるだろうか。

無人タクシーへのアプローチ 写真を拡大

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