イノベーションの風を読む

2018年5月16日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 デジタル革命後のインターネットとモバイルの現代は、これまでにない新しい価値を創造することが、これまでになく可能な時代だ。そして、その新しい価値は、ソフトウェアの力によって生み出されている。ソフトウェアの力とは、想像力と創造力であり、その力を発揮するにはモチベーション、世界を変えるというモチベーションが必要だ。

(Valeriy_G/iStock)

 そのモチベーションとソフトウェアの力は、これまでシリコンバレーに集中していた。それに、世界が呑み込まれている。この、ソフトウェアが世界を呑み込む時代に、ハードウェアは生き残ることができるのか。もちろん、ハードウェアが不要になることはない。しかし、何もしなければハードウェア単体の価値は相対的に低下し続け、それをつくるメーカーが衰退することは必至だ。

 メーカーが生き残るためには、自社のハードウェア製品を変革しなければならない。それは、次の二つの課題に分けて考える必要がある。

  • ソフトウェアの力によって、どのように新しい価値を生み出すのか?
  • そのために、ソフトウェアの力とモチベーションをどう手に入れるのか?

新しい価値

 すでに、インターネットとモバイルというグローバルなビジネスの基盤が整備されている。その上に、ソフトウェアの力によって、さまざまな「ハードウェア製品が扱うコンテンツや関連するデータの流れを変える新しいサービス」をつくることができる。そして、そのサービスにハードウェアを最適化して一体化することによって新しい価値を生み出す。

 アップルのiPodは、iTunes Music Storeというクラウドサービスとの一体化によって、人々のモバイルでの音楽体験に新しい価値を提供した。デジタル化された音楽(コンテンツ)や関連するデータは、クラウドサービスからパソコンに送られて蓄積され、さらにiPodに同期されるという新しい流れになった。

 iPhoneが登場すると、さらにハードウェアとサービスとの一体化が進んだ。コンテンツやデータはクラウドサービスからiPhoneに送られて蓄積されるようになり、人々はiPodを捨ててしまった。

 Spotifyなどの音楽ストリーミングサービスが拡大すると、音楽は購入して所有するものではなくなった。しかし、大量のコンテンツやデータをハードウェアに蓄積する必要がなくなったにも関わらず、ハードウェアとサービスとの一体化には、いまのところ大きな変化はない。

 ストリーミングされる音楽を聴くには、音楽をインターネットから受信して再生するデバイスがあればよい。アップルのAirPodsやソニーのWF-1000Xのような、完全ワイヤレスのイヤホンに直接ストリーミングすることは技術的になんの問題もない。AirPodsとAppleMusic、あるいはWF-1000Xと(例えば)Spotifyというハードウェアとサービスを、それぞれ一体化できるはずだ。

 デジタルカメラで撮った写真をソーシャルネットで共有するには、パソコンやスマートフォンに写真を転送し、そこからFacebookやInstagramなどのサービスに送る必要がある。しかし、初めからスマートフォンのカメラで撮影すれば、撮ってすぐに送ることができる。デジタルカメラのほうが、よい写真が撮れる(諸説あり)といっても、多くの人にとっては、専用のアプリによってサービスと一体化したスマートフォンのカメラのほうがはるかに価値がある。

 インスタグラムの共同創業者ケビン・シストロームに「カメラメーカーと連携して、デジタルカメラからも写真を送れるようにしたらどうか」と訊いたことがあったが、彼は肩をすぼめて「僕たちはシームレスな体験にこそ価値があると信じている。妥協することはできない」と答えた。我ながらバカな質問をしたものだ。

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