2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年7月16日

 最近、中国は、台湾の「天然独」と呼ばれる若者たちを対象に懐柔策を強化しつつある。「天然独」とは、生まれつき自分たちは台湾人であり、中国人ではない、との台湾アイデンティティーをもつ青年たちのことである。中国は、彼らに対する「両岸の一つの民族」感情の促進、台湾独立志向の阻止を目指し、台湾の教育機関、とりわけ小中学校教師への働きかけを強化している。

(Song Yuan/xiaomingphotography/enigma_images/iStock, Anke Wittkowski/EyeEm)

 中国は、台湾の蔡英文政権の「現状維持」政策を切り崩すために、武力を背景とする威嚇、国際場裏における台湾締め付け(台湾と外交関係を有する国と国交を結び台湾との外交関係を絶ったり、国際機関等への台湾の参加を阻止したりすること)、中台経済関係を使った圧力を含め、あの手この手の硬軟両様の方策を用いている。

 その中でも、とりわけ、若者にピントを合わせた浸透工作は台湾にとっては、緊急に対処を要する警戒事項といえよう。 

 1990 年代初めの李登輝時代より、台湾では、台湾アイデンティティー調査といわれるアンケートがとられるようになってきた。それは、「自分は台湾人である」、「自分は中国人である」、「自分は台湾人でもあり、中国人でもある」という三つのカテゴリーに分けて質問するものであり、その結果、「自分は台湾人である」という数字が全体の 60%を超えるレベルにまで達するようになった。「自分は中国人である」という数字は 5%弱であり、「自分は台湾人でもあり、中国人でもある」という数字は 30 数%というレベルを保っている。 

 とくに、若者たちの台湾人意識は高い数字を示してきたし、馬英九政権末期の青年たちによる「ひまわり運動」は台湾人意識をさらに高めるものであったといえる。 

 中国の台湾への浸透工作は、このような台湾の現状を踏まえたうえで打ち出されたものである。最近では、「三中一青」といわれるものがその中心である。つまり、台湾中南部住民、中間及び低所得者層、中小企業、および青年たちを照準にしている。中でも、青年たちを対象にしている点は、本年 2 月に中国が打ち出した「31 項目の台湾優遇措置」の内容と軌を一にする。 

 それらは、中国大陸における台湾人のビジネス展開、就業、起業、税制等すべての面において、台湾人は中国人と同等の待遇を受けることが出来るという触れ込みである。また台湾の学生が中国の学校に入学するにあたっても特段の差別を受けることはない、という。 


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