したたか者の流儀

2018年7月27日

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パスカル・ヤン (Pascal Yan)

著述家

著述家。ルーヴァン・カトリック大学大学院中退(ベルギー)。証券マンとして25年間、欧州を中心に海外で過ごす。現在の職業は都内大学教授。

 

 日常語では登記所というが、正式には法務局出張所。最近、用事があって駆け込んだ。大昔に買ったマンションの抵当権解除のためだった。それができない。買った当時の住所は戸籍の附票から消えていてどこにもなく“俺のものだ”と証明できないのだ。

(voyata/GettyImages)

 ネットで検索すると役所としては親切な部類であるがそれぞれ独自のスタイルがあり、登記官の裁量によるところがかなりあると出ていた。

 行方不明、不在地主の保有土地問題が大きな社会問題となってきている。正式の用語で言えば「所有者不明土地」ということになるようだ。累計は、遠くない将来の2040年には北海道と同じサイズになるという話を読んだ。現在でも既に九州の大きさを超えて異常な事態となっている。

 土地の正統な所有者が名乗り出ないのも不思議な話である。辺鄙な場所で、それ自体金銭的価値が少ないからだろうと思っていた矢先に、都市部でも現在の所有者が把握出来ない物件も出てきたようだ。

 一方で、地面師が暗躍し有名企業までもが犠牲になって数十億単位の被害がでたというニュースが続いている。これらの事件は本来の持ち主が存在していて、彼らが騒いで発覚したのだが、全く所有者が不明であれば、プロの地面師にとっては、赤子の手をひねるという表現が適当な事態となろう。

 政府も、「所有者不明土地」問題は、看過できない状態とみて手を打ち始めているのもニュースになっている。

 今回の件は、所有者不明問題ではなく自分の所有不動産の本人確認問題、すなわち所有を主張できない事態になってしまったので一言。「不明土地」の原因は既に沢山の議論がでているが、そこにも通じる頭の体操として聞いてほしい。

 三十数年前小さな賃貸用マンションを購入した。家賃は高くローンは賃料でまかなえる水準であった。今思えば、問題になっている「カボチャの馬車」投資と同じスキームであったが、場所が良かったので賃借人には苦労はしなかった。

 いつの日か完済すれば、それ以降の家賃が“個人年金”となるのを夢見て売却することもなく今回完済となった。完済すれば、金融会社からいくつか書類送られてきて抵当権抹消の手続きにはいる。

 「抵当権抹消」の手続きを司法書士にまかせずに自分で法務局に出向いてみた。何年も固定資産税の通知もきているので安心して登記官と対峙すると彼は一言

 「住所変更していますね」

 と、発声した。当方は、固定資産税の通知が正しく自宅に来ているので「大丈夫だ」という自信はあった。

 登記官は早速原簿をあたると住所変更はしていない、したがって抵当権抹消はできないという。されば、住所変更をせねばならぬ。どうすれば良いのかと登記官に聞くと手慣れたもので、本籍地の役所で戸籍の附票を取ってくれば良いとのこと。このときは時間の問題と高をくくっていた。

 ダメ元で固定資産税の通知は来ているのでどうにかなりませんかと丁寧に聞くと、やや高飛車に「こちらは国ですから。あちらは都でしょう」だと。税を取るときは追いかけるが、国民サービスには興味がないということになるか。

 仕方なしに、遠方の役所に出向いて、戸籍係に状況を話してびっくりとなった。不動産の住所変更のための附票をもらいたいのですが、お願いしますと言うと、「平成17年の破棄で、なくなっていますね」だと。

 「1980年代に住んでいた住所が出ているものが必要なのです」

 「消えていますね。本籍と最近の住所はあるのですが」

 「どのように当時の住所を示すことが出来ますか」

 「今となっては無理でしょうね。お気の毒ですね」

 「数回の引っ越しくらい載せておけないのですか」

 「政府が廃棄を決めて廃棄したのですから。政府の問題です」

 当方食い下がるが、明らかに正職員と比べたら親切になったとはいえ派遣会社の人なので、希望は全くない。

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