トランプ政権は、中国の米国からの技術取得に焦点を当て、中国が米国の知的財産権を不当に侵害していたとして、通商法301条に基づき、中国のハイテク関連商品を含む対米輸出品に報復関税を課するとともに、中国の米ハイテク企業への投資規制のみならず、米国の対中技術輸出の規制も図ろうとしている。
最近の代表例は、香港に本社を置くBroadcom社によるQualcomm社買収の差し止めである。Qualcomm社は、スマートフォン向けプロセッサーの世界最大の米半導体メーカーであり、トランプ政権はQualcomm社が中国の手にわたることに危機感を抱き、財務省傘下の対米外国投資委員会が、安全保障上問題であるとして買収を差し止めたものである。
中国の最近の技術革新の進展は著しいが、ハイテク産業の振興には依然として外国、特に米国の技術を必要としている。技術革新の推進は、先進工業国に追いつこうとした日本、韓国、台湾も積極的に行ったが、これら諸国がある段階から開放経済の下で、民間主導で推進したのに対し、中国はあくまで国家主導で行おうとしているのが特徴である。
米国は、中国のハイテク産業の推進を米国に対する挑戦と受け止め、危機感を抱いているが、現状では中国のハイテク関連対米投資は、2017年で、Tencent社によるUberへの80億ドルの投資を含め、130億ドルに過ぎなかった。
また、米国の対中技術輸出も、2017年で300億ドルにとどまった。米国の対中貿易の総額が 7000億ドルを超えることに照らせば、たいした額ではない。
また、中国による米国技術の取得がすべて不正な手段で行われているわけでもない。
しかし、今後ハイテクを巡る米中の確執は高まることが予想される。
焦点の一つは、5Gである。5Gは次世代のワイヤレスの基準で、今後のテレコム分野の動向を左右する基幹技術と見られており、中国は「中国製造2025」で最重要分野の一つと位置づけている。
米関連団体の報告によれば、中国で大手スマートフォンメーカーの華為技術(ファーウェイ)が 5G の研究開発を積極的に進めていること、政府が支援していることから、現時点では5Gで中国がわずかではあるが米国をリードしているとのことである。トランプ政権が危機感を抱くのも無理はない。
Qualcomm社の買収差し止めも、Qualcomm社が5Gの研究開発に巨額の支出をしてきたことが、一つの理由と考えられている。
このような状況を「技術保護主義」というのは行き過ぎの感じがするが(注:6月28日付ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したモルガン・スタンレー社グローバル戦略部長のルシール・シャーマ氏の言葉、)ハイテクを巡る米中の確執が今後も続き、あるいは拡大することは十分考えられる。
技術の戦いは安全保障に関わってくる。日本としては米中の技術の戦いは他人事ではない。日本も、米国同様、自国の先端技術を保護する必要があるだろう。日本の技術が中国に取得されたり、先端技術の企業が中国に買収されたりしたら、それは日本の経済発展にかかわるばかりではなく、日本の安全保障にもかかわって来る。米国の議会は、これらのことに、行政府以上に厳しい態度をとることもある。日本の国会は、過去に、議員立法で科学技術基本法を成立させたが、今後、「技術立国の日本」を守り、維持、発展させることを、より真剣に議論する必要があろう。
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