栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年8月12日

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栖来ひかり (すみき・ひかり)

台湾在住ライター

京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)、『台湾と山口をつなぐ旅』(2018年、西日本出版社)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』

 台湾では、旧暦の七月を「鬼月」という。閻魔大王とも呼ばれる「地蔵王菩薩」がこの世と地獄を隔てる「鬼門」をひらき、亡者たちがあの世から戻ってくる。現代日本でいう「お盆」があの世から先祖を迎えることを意味するのに対し、台湾の鬼月で迎えるのは、好兄弟(ハオションディ)と呼ばれる、身よりのない亡者の魂だ。

中元節には、身寄りのない亡者をもてなすためにたくさんのお供え物が並べられる(写真:筆者提供)

台湾・鬼月のタブーとは

 旧暦にもとづくので鬼月の時期は毎年異なるが、今年2018年は8月11日からはじまり、次の新月である9月9日まで一ヶ月つづく。鬼月のあいだは色んなタブーがあり、大きくいえば結婚や引っ越し、不動産取引を避けるのが習わしだが、他にも色々な禁忌がある。たとえば、

1.赤い服を身に着けることや、女性の赤い下着はとくに避ける。好兄弟にまとわりつかれやすく、疲れやすい。大事なときに力がでない(赤色はあの世と通じやすい色だから)

2.夜に服を干さない(好兄弟が自分の上着だと思って居付く)

3.ひとりで海に行かない(水鬼に引き込まれやすい、日本でもお盆に海に入るなと言われるのは、同じ理由と思われる)

4.夜10時の公園や山の上には行かない(好兄弟が集まっているから)

5.路上に落ちてるお金を拾わない(好兄弟のものかも知れないから)

6.後ろを向いて歩かない

7.肩から上だけの写真はなるべく撮らない(人間の身体のうえには三つの火が灯っており、写真を撮られるとそのひとつが消え、好兄弟に身体を乗っ取られる)

8.夜遅くに家人の名前を大声で呼ばない

9.壁に寄りかかりながら歩かない(好兄弟は壁と服をつけて休むことを好み、仲間と思われる)

10.一人でいるところで、肩を叩かれたりフルネームを呼ばれても振り向かない

11.最終バスになるべく乗らない

12.口笛を吹かない(好兄弟は、口笛の音を好む)

13.ごはんに箸を立てない(箸を立てるのは死者へ食事を奉るときの作法であり、好兄弟が自分に分けてくれたと思い寄ってくる)

14.風鈴を枕元にかけない(風鈴の音は、好兄弟の好きな「陰」の気を誘う)

15.老人や子供など比較的からだの弱いものは、夜の外出を避ける

などなど、台湾人でも一般的には知らない細かいことも色々あるが、なかなかゾッとさせられる。

「無縁仏」をもてなすようになったワケ

 旧暦7月15日には「中元節」といい、一年の中で一番盛大な拜拜(バイバイと呼ばれる法事)をして、鬼月の間に地獄から出てきて彷徨っている好兄弟(無縁仏)をもてなし、紙錢を燃やして冥福を祈る。道教では「中元普渡」、仏教では「盂蘭盆(うらぼん)」と呼ばれる施餓鬼会(せがきえ)である。

 道教の最高神・玉皇大帝には三人の兄弟がおり、この中元の日は三兄弟の中のひとり、地官大帝(清虚大帝)の誕生日に当る。かつて身寄りのない寂しい魂を憐れにおもった地官大帝が「自分の誕生日は祝わなくて良いから、無縁仏の魂を祀るように」と仰せになったことから、中元普渡の拜拜(バイバイ)は現在の形を取るようになったと言われている。

 この日の特色は、多くのお供え物と一緒に水を張った洗面器とタオルが置いてあること。さまよい疲れた好兄弟に身づくろいして疲れを癒してもらう。鏡やクシ、石けんや歯ブラシ、美顔パックを供えるところもある。この風習が日本では、お世話になった方への贈り物の習慣として、いつしか定着したのが「お中元」なのだろう。

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