田部康喜のTV読本

2018年8月22日

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田部康喜 (たべ・こうき)

東日本国際大学客員教授

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 TBS日曜劇場「この世界の片隅に」は、こうの史代原作の劇場版アニメーションの大ヒットあとを受けながらも、テレビが描く「いま」の現代篇を織り込んで新たな映像表現に仕上がっている。

 「この世界」の漫画とアニメーションの世界に魅入られた人たちにも、ドラマは静かな感動を呼んでいることだろう。こうのが描く戦時中から敗戦直後の世界に生きる、北條すず(松本穂香)の物語は、表現形式は異なっても胸に迫る。

(greenleaf123/iStock/Getty Images Plus)

過去を現代に結びつける力

 広島の漁村生まれのすずが、呉の海軍の軍法会議の書記官を務める、北條周作(松坂桃李)のもとに嫁いだのは昭和19(1944)年2月のことである。ドラマは、敗戦とその直後の時代に向かって、悲劇を再生の物語を綴っていくことになる。

 すずは、絵が描くことが大好きな少女だった。実家が作ったのりを広島の店に届けたときに、人さらいに捕まる。少年の周作も同じひとさらいのリアカーに乗せられていた。すずに励まされて脱出したことを、周作は忘れられなかった。嫁を迎えることを両親に勧められた周作は、すずのことを思い出して探し出したのである。

 周作は、遊郭の遊女・白木リン(二階堂ふみ)と結婚をしようとした過去が暗示される。闇市で砂糖を買った帰りに、道を誤って遊郭街に迷い込んだ、すずはリンと親しくなる。

 日中戦争から太平洋戦争に突入して、敗戦した過去を我々は知っている。ドラマの舞台となった呉が海軍の軍事工廠があり爆撃があったことも、広島に原爆が落とされたことも。ただ、戦後70年以上が過ぎて、戦時中を生きた人々が少なくなるにつれて過去と現在を結ぶ記憶の糸が細くなっているようにも感じている。

 ドラマが原作にはない現代篇を織り込んでいることは、過去を現代に結びつける力になっている。第6話(8月19日)に至って、現代篇の主役ともいえる節子(香川京子)がすずの縁者であることが明らかになる。

 近江佳代(榮倉奈々)は人生の悩みに息詰まったとき、街で出会った節子からすずの話を聞いて、いまは空き家になっている北條家を改造してカフェを開こうと決意した。

 平成30(2018)年8月、節子と佳代は広島の平和公園で手を合わせたあと、公園でそして市街を望むホテルのレストランで語り合う。

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