赤坂英一の野球丸

2018年9月19日

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9月ロサンゼルス・エンジェルスでメジャー昇格した田沢純一(AFLO)

 金足農・吉田輝星、大阪桐蔭・根尾昂ら、今夏の甲子園を沸かせた高校球児たちの進路が取り沙汰される一方で、来月行われるプロ野球のドラフト戦線に新たな事態が出来している。社会人の目玉と言われた即戦力投手、パナソニック・吉川峻平が日本のプロ野球の勧誘を断り、メジャーリーグのダイヤモンドバックスと契約。さらに、高校や大学にすら進学せず、史上最年少の16歳でロイヤルズと契約を結んだ結城海斗のような〝スーパー中学生〟まで出現したのだ。

 結城は大阪府羽曳野市出身で、中学時代は河西リトルシニアに所属し、最高速度144㎞の真っ直ぐ、縦と横のスライダーなど4種類の変化球を駆使する本格派右腕投手である。中学生投手としての評価は飛騨高山ボーイズ時代の根尾(中学3年時の最高速度146㎞)に近いものがあり、進学先は大阪桐蔭か、別の強豪校かと注目されていた中、結城本人はメジャーのロイヤルズを選択。高校野球選手権の地方予選が始まったばかりの7月8日に記者会見を開き、アマチュアのみならずプロ球界をも驚愕させた。

 契約金32万2500ドル(約3613万円、金額は推定、以下同)で、7年間のマイナー契約。一応、日本の大学卒業時の年齢までは面倒を見てもらえる前提で、その途中でメジャーに昇格すれば、当然年俸も大幅にアップする。金足農・吉田のように甲子園で活躍し、日本のプロに行ったら契約金1億円はくだらないだろうが、直接メジャーへ行けば、高校での連投による疲労、故障のリスクを回避できるメリットもある。

 結城のような中学生球児が現れた背景には、高校を卒業して直接メジャーへ行くことが事実上不可能になっている、という事情がある。大リーグ機構(MLB)は2013年以降、1995年9月以降に生まれた海外のアマ選手を獲得する場合は、契約する年の5月までに出生証明書、及び実年齢のわかるパスポートのコピーなどをMLBに提出しなければならない、という新ルールを制定した。メジャーでは近年、中南米出身選手の年齢詐称が社会問題化しており、対抗措置としてこのような事前チェックが制度化されたわけだ。

 このルールに従うと、例えば吉田や根尾が来年にでもメジャーに行こうとしたら、今年の5月までに球団のスカウトと接触し、戸籍抄本かパスポートの写しを渡しておく必要がある。が、日本では学生野球憲章のプロアマ規定により、夏の甲子園が終了する8月までは原則としてプロと接触してはならない。

 こうして、高校卒業したら直接メジャー、いわゆる「直メジャー」の道は閉ざされた。ちなみに、このルールが制定される1年前、「直メジャー」を希望した最後の高校生が現エンゼルスの大谷翔平(1994年生まれ、2012年秋ドラフト1位)だった。

 来年からも結城に続き、「直メジャー」を目指す〝スーパー中学生〟が続出するかどうかはわからない。とはいえ、結城が数年以内にメジャーに昇格し、ある程度の成績を挙げ、ベンチ入りメンバーに定着でもすれば、将来的な影響は決して小さくはないはずだ。

 社会人の「直メジャー」にはすでに、田沢純一という大きな成功例がある。2008年9月、今年のパナソニック・吉川と同様、社会人随一の即戦力右腕と評価されていた田沢は、新日本石油ENEOS(現JX-ENEOS)から直接メジャーへ行くことを表明。レッドソックスと3年契約を結び、抑えの上原浩治(現巨人)につなぐセットアッパーとして大活躍した。13年にはワールドシリーズにも出場、見事ワールドチャンピオンに輝いている。

 田沢の入団時の条件は3年総額330万ドル(当時約3億1440万円)。9年目の今季までにマーリンズ、タイガース、エンゼルスなどを渡り歩き、昨季までにメジャー通算成績20勝25敗4セーブ88ホールドをマーク。年俸総額は2368万5000ドル(約26億290万円)に上っている。

 ちなみに、同じ08年の国内ドラフト5位で、JR東日本東北からソフトバンクに入団した攝津正は、今季ここまで79勝49敗1セーブ73ホールド、年俸総額26億3700万円である。どちらが得をしたかは意見の分かれるところだろうが、少なくとも田沢のほうは損をしたとは思っていないに違いない。今年、ダイヤモンドバックス入りを決めたパナソニックの吉川も、田沢の成功には大いに刺激と影響を受けたはずだ。

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