2024年4月27日(土)

赤坂英一の野球丸

2018年8月8日

 巨人のチーム構成に、一見地味なようで、実は大きな異変が起こっている。今年84年目を迎えた球団史上、初めての出来事だろう。一軍メンバーに育成選手出身の外国人が3人登録されたのだ。これまで資金力に物を言わせて元大リーガーや国内他球団の大物外国人を獲得してきた巨人が、これほど発展途上の人材を登用していることは、ひとつの〝歴史的事件〟と言ってもいいと思う。

(czekma13/Gettyimages)

 この3人はみんなドミニカ共和国出身で、先発投手のクリストファー・クリソストモ・メルセデス(24歳、2年目、年俸270万円=金額は推定、以下同)。リリーフ投手のサムエル・アダメス(24歳、3年目、年俸300万円)。内野手のホルヘ・マルティネス(25歳、2年目、年俸250万円)。年俸は3人合わせても1000万円に届かず、中日から巨人に移籍した昨季の本塁打王、アレックス・ゲレーロの年俸3億円の30分の1にも満たない。

 しかし、そのゲレーロが打撃不振、クローザーのアルキメデス・カミネロ(年俸2億3000万円)が体調不良で二軍落ち。代わって中継ぎから抑えに回ったスコット・マシソン(同3億6800万円)も左膝のケガで登録抹消となり、高橋由伸監督も彼ら若きドミニカ人たちの手を借りなければならなくなった。

 とくに、メルセデスは先発ローテーションの穴を埋めて余りある活躍ぶりだ。デビュー戦となった7月10日のヤクルト戦(神宮)で5回無失点で初勝利を挙げ、続く同月18日の阪神戦(甲子園)でも7回無失点で2勝目をマーク。さらに、勝ち星こそつかなかったが、同月26日のヤクルト戦(京セラドーム大阪)でも8回を無失点。そして、8月2日のDeNA戦(横浜)では3勝目を「野球人生で初めて」だったという完投勝利で飾った。

 ちなみに、デビューから2連勝して防御率0・00は外国人や育成出身はおろか、日本人を含めても球団史上初。デビューから25イニング連続無失点は、プロ野球が2リーグ制となった1950年以降、83年に槙原寛己が記録した17回3分の2を抜いて球団史上最長である。もっと言えば、外国人投手の来日初登板からの連続無失点記録としても、2000年の中日メルビン・バンチが持つ21回3分の2を抜いてプロ野球最高となった。このドミニカ人の活躍を〝歴史的事件〟と表現した理由がおわかりいただけるだろう。

 巨人の二軍首脳陣によると、メルセデスの最大の特長は、「左から150㎞台の真っ直ぐを投げられるパワーもさりながら、あらゆる球種を狙ったところにコントロールできる制球力にある」という。調子が悪くて真っ直ぐが走らない日は、腕の出どころを変え、変化球を増やし、カットボール系の球種を多投。セットポジションから投げる間合いも小刻みに変えて打者のタイミングを外してゆく。

 そういう我慢強い投球ができるのも、頭とメンタルがしっかりしているからこそ。2年前の2016年には、広島がドミニカで経営する〈カープアカデミー〉と契約しながら、理由も告げられないままに1年で解雇。その年のシーズンオフに巨人の入団テストに合格するも、1年目の翌17年は二軍で18試合に登板し、2勝3敗、防御率3・29とパッとせず。

 しかし、こういう投手が大化けするから、野球は面白いのである。私生活では母国ドミニカに同い年の妻がいて、昨年は待望の長男が生まれたばかり。その家族にもっと豊かな生活をさせてやりたい、という思いが最大のモチベーションになっている。


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