ちょっと寄り道うまいもの

2011年7月29日

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冷房が控えめな今夏は、フードジャーナリストの
森枝卓士さんも少々お疲れ気味。
思い立ち、夏バテ対策のメニューや涼やかな献立が
楽しめそうな京都へと旅立ちました。
食通の畏友に案内を請うた二泊三日の美食行脚。
はてさて、どんな京料理に出会えるでしょうか─―。

 待ち合わせ場所は三十三間堂。庭も心地よいし、何より数あるお気に入りの仏像をまた拝める。それはいい。が、友は東京からの客に鰻(うなぎ)をという。いや、時期も時期だから「京都の夏バテ対策の知恵で、美味しいものを教えて」と言ったのは私だ。それにしても、鰻とはあまりに月並ではないか?

 とはいえ、薦めてくれるのは、日本画家というよりも、私にとっては食いしん坊仲間の畏友、黒光茂明(くろみつしげあき)画伯である。とある割烹でたまたま隣り合わせて、話をするうちに、お互いにあまりの食いしん坊加減にあきれ果て、親しくなった相手である。蒲焼きなどではあるまい。

 案内されたのは、「わらじや」。三十三間堂のすぐ目の前。秀吉がわらじをぬいで云々という由来の老舗、名前は聞いている。しかし、東京から京都に来て鰻という発想はわかず、また訪ねてみなければと思う新しい割烹など多すぎるものだから、入ったことはなかった。表のわらじを眺めて通り過ぎただけ。

 これが、面白かった。鰻といえば、どこでも慣れた食べ方があると思うが、なるほど、京都ではこうなるのかという面白さ。

 暑い盛りに鍋はどうかと危惧したが、スッポンのそれのように熱々にされた鍋ながら、コンロが置かれるわけではない。余熱で大丈夫という工夫がされていて、これがよろしい。だしで炊かれた、ぶつ切りのようで、骨は抜いてある鰻もよければ、味が染みたお麩やネギやら葛切りやらもよろしい。昼間から酒が進んでしまうのが難か。

「鰻雑炊」はお餅も入り、ボリュームたっぷり。なるほど、こちらがメインかと納得

 そして、鰻雑炊(うぞうすい)。同じ鍋で登場するが、これがまた発見の味。滋味深く、それでいて素直に入ってしまう。なるほど、こういう食べ方もあったかと思う間もなく幸せになれる。

 完璧な「異文化」が興味深いのは当然だが、慣れたものが形を変える面白さもまたある。納得していると、「東京の料理屋さんで、いつもそういうこと思うものだから」と画伯が満面の笑みでこたえる。参ったか、と。

 さて、昼間から満ち足りてしまった。これからどこへと尋ねると、目の前の博物館を歩くか。あるいは古門前通(ふるもんぜんどおり)でもと黒光さん。

 骨董店が並ぶあたりではないか。私にとっては鬼門だ。ついつい旅先で買い込んでは、そんな大皿、どこに収納する場所があるのと妻に怒られているのだ。散財して、と。

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