2024年4月21日(日)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年10月9日

 連邦議会上院は6日の本会議で、ドナルド・トランプ大統領が指名したブレット・カバノーを連邦最高裁判所判事として承認した。100人から成る上院議員のうち、賛成50、反対48と僅差での承認だった。51名からなる共和党議員のうち、反対を表明していたリサ・マカウスキ(アラスカ州選出)が棄権し、スティーヴ・デインズ(モンタナ州選出)は娘の結婚式に参加するため欠席したものの、残りの49名は賛成した。他方、49名からなる民主党系議員のうち賛成はジョー・マンチン(ウェスト・ヴァージニア州選出)のみだった。2票差での承認は1881年以来の僅差だったが、賛否がこれほど党派的に分かれたのも今回の大きな特徴であった。

カバノー氏の最高裁判事指名が承認された。各地で行われた抗議デモの様子(写真:AP/アフロ)

 今年7月の論稿「最高裁判事の任命が米国で大問題になるワケ」(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13414)で紹介したように、アメリカの連邦裁判所の判事の任期は終身である。カバノーは53歳と若いことから、以後20年以上最高裁判事を続ける可能性が高い。カバノーの就任により、連邦最高裁判事9名のうち保守派が5名、リベラル派が4名となる。保守派判事は相対的に若いことから、アメリカの最高裁の判決は以後保守寄りに固定される可能性が高いと考えられている。

政治争点化する最高裁判事の承認問題

 今回のカバノーの承認問題は、大きな政治的争点となった。1987年に、ルイス・パウエル判事の引退表明を受けて当時のロナルド・レーガン大統領が保守色の強いロバート・ボークを指名した。それに民主党が反発して最高裁判所判事の承認を拒否する事態となったが、それ以後、イデオロギーを理由として最高裁判事の承認問題が政治争点化する現象をボーキングと呼ぶようになった。今回のカバノーの承認問題をめぐっては、とりわけ激しい党派対立がみられた。

 その背景の一つに、2016年の最高裁判事承認問題がある。同年2月に保守派のアントニン・スカリア判事が死去したのに伴い、当時のオバマ大統領はメリック・ガーランドをその後任に指名した。だが、当時の上院で多数を握っていた共和党は、表決はおろか公聴会を開くことすら拒否した。その結果、翌年2月に新任のトランプ大統領が保守派のニール・ゴーサッチを指名して共和党が多数を占める上院が承認するまで、ほぼ一年間連邦最高裁判事に欠員が生じるという異常事態となった。ゴーサッチが就任すればリベラル派判事が5名となり多数派を構成することから、そのような事態を避けたい保守派がオバマによる指名を無視したことによるものだった。民主党とリベラル派はそれに対する不満を今回の判事承認の際にぶつけたのだった。

 それに加えて重要だったのが、カバノーの性的暴行疑惑が発生したことである。高校時代にカバノーからレイプされそうになったと告発した人物が登場したことにより、承認問題は一層複雑な問題となった。この問題は、20年以上前の連邦最高裁判事承認問題を思い起こさせた。1991年には、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が連邦最高裁判事に指名したクラレンス・トマスにセクハラ疑惑が発生したにもかかわらず、被害を訴えたアニタ・ヒルに十分な聴取をせずに上院が承認手続きを進めてトマスが最高裁判事に承認された。Me Too運動の盛り上がりもあり、民主党の女性支持者は、同様の事態が発生しないように徹底的な調査を求めたのだった。


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