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2018年9月27日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 トランプ大統領が連邦最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏(53、現ワシントンDC巡回区控訴裁判所判事)にセクハラ疑惑が持ち上がっている。同氏から、過去に性的暴行を受けたという女性が実名で名乗り出でて、疑惑の内容を詳細に暴露した。別な女性からも被害の訴えもなされ、米上院での指名承認手続きが厄介な展開になっている。

ガバノー氏の最高裁判事就任に抗議する人々(AP/AFLO)

 このニュースを聞いて思い出したのは、30年近く前にやはり指名承認手続き中にセクハラ疑惑を指摘されたクラレンス・トーマス現最高裁判事のケースだ。トーマス氏のセクハラ問題については、カバノー氏の疑惑が浮上する以前のことし8月31日、当サイトにアップされた『トランプ氏だけではない セックススキャンダルまみれの大統領たち』のなかでも触れたが、この2つ疑惑を比較してみるとおどろくほど似かよっていることがわかる。トーマス氏の場合、僅差で指名が承認されたが、さてカバノー氏の場合はどうなる?

酷似するふたつのセクハラ事件

 カバノー氏はトーマス氏同様、現在DCの控訴裁判事で、7月にトランプ大統領から、引退する最高裁判事の後任に指名された。指名承認のための公聴会は9月4日から上院司法委員会で始まったが、〝セクハラ告発〟は審議途中の9月中旬に突然、なされた。

 カリフォルニア州の大学で心理学を教えるクリスティン・フォード教授(51)が米紙ワシントン・ポストのインタビューで明らかにした。教授によると、高校生だった1982年夏、ワシントン郊外の個人の家で開かれたパーティーに出席した際、居合わせた当時やはり高校生のカバノー氏とその友人から無理やり寝室に連れ込まれた。体を触られ、衣服をはぎ取られそうになったが、口をふさがれたため助けを呼ぶこともできず、生命の危険も感じたが、必死にふりほどいて逃げ出した。カバノー氏は泥酔状態だったという。   

 カバノー氏は、「彼女は何か大きな間違いを犯している。私はそんなパーティーに行ったことはない」と真っ向から否定。30年前以上も前にパーティーに行ったか、行かなかったかなど鮮明に覚えているのも不思議だが、「脅迫に屈して指名辞退をすることはない」など強気の姿勢を崩していない。女性教授は、細部は覚えていないとしながらも、家の間取りなどを含めて詳細に当時の状況を説明、上院司法委員会での公聴会で証言する用意があるとしている。

 カバノー氏を指名したトランプ大統領も、黙っていればいいのに、「彼女はなぜ(事件のあった)36年前に訴え出なかったのだ」などとツィート、反カバノー派や、この女性を擁護する人たちの反発をかっている。
  
 クラレンス・トーマス氏のケースは1991年にさかのぼる。やはりDCの巡回控訴裁判事だった氏は、この年7月、ブッシュ大統領(先代、当時)から最高裁判事の指名を受けた。引退する前任者同様、アフリカ系だったことが、白羽の矢が立った理由のひとつといわれた。

 議会での承認手続き中に、今回同様、突然、疑惑が浮上した。トーマス氏が1980年代初め、連邦雇用機会均等委員会(EEOC)委員長だった当時の部下で、このときオクラホマ大学教授を務めていたアニタ・ヒルという女性がトーマス氏から激しいセクハラを受けたと暴露した。

 ヒル教授は米上院司法委員会で証言、「トーマス氏からしつこくデートに誘われ、断ると、ポルノ映画の内容を聞かされたり、卑猥な言葉を浴びせられた」と、テレビカメラの前で、きわどい性的な用語まで用いて説明した。

 トーマス氏は「アニタ・ヒルと性的な会話をしたこと、ポルノについて話したことやデートに誘ったことなど一切ない。彼女に対して何ら性的な関心をもっていなかった」と訴えを否定、アフリカ系判事に対する〝ハイテク・リンチ〟だと反論した。

 筆者は当時、米国に住んでいたが、忘れられないのは9月13日、日曜日にもかかわらず、深夜にまで及んだ承認公聴会だ。トーマス氏の指名を支持するグループ、ヒル教授を擁護するグループから、それぞれ、かつての同僚、友人らが出席して証言。

 トーマス支持派は、「アニタは精神を病んでいるとしか思えない。以前の彼女とは違っている」、「アニタはトーマス氏のことを好きだったはずだ。彼のことをいつも尊敬の念を持って話していた」「彼女は冷酷な人間だった」などと批判。

 ヒル擁護派は「トーマス氏のような人物が差別と戦うEEOCの長だったとは皮肉なことだ。最高裁判事にはふさわしくない」「アニタは高潔な女性だ。法科大学院のクラスメート65人がこれに賛成する共同声明に署名した」「トーマス氏は、〝第3者の証人がいれば、君の勝訴だ〟とアニタに言った」などこれまた痛烈な非難を浴びせた。批判というよりは、〝人格攻撃合戦〟の様相を呈し、アメリカ人がいくら率直といっても、公の席でここまで他人のことをあしざまにいうのかとテレビ中継をみながら心底驚いた。

 個人的には、ヒル教授の証言を信じたいところだったが、公聴会直後に米紙ニューヨーク・タイムズが世論調査で、どちらを信用できるかと聞いたところ、トーマス氏58%、ヒル教授24%、トーマス氏の最高裁判事就任は翌々日の上院本会議で52―48の僅差で承認された。

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