WEDGE REPORT

2018年8月17日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 「ポスト6・12」フィーバーは終焉を告げたようだ。シンガポールで行われた米朝首脳会談後の期待と興奮は、北朝鮮が核を廃棄するどころか、継続しているという疑惑が浮上するにいたって一気に冷め、状況は首脳会談以前に戻りつつある。圧力路線に戻るのか、対話路線を継続するのか。トランプ政権は今後の方針を立てあぐねているように見える。内政の混迷が正しい政策決定への足かせにもなっているようだ。影響を受けるのは、ひとり米国だけではない。米朝関係の進展をにらみながら、「主体的な拉致問題の解決」を目指している日本も、きびしい展開を強いられる恐れがある。

8日、塩辛工場を視察した金正恩氏(KCNA/UPI/アフロ)

国連舞台に「第2回政治ショー」?

 米国の朝鮮半島問題専門家の間で、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党委員長に対し、9月の国連総会を機会に第2回目の首脳会談を行うか、ホワイトハウスを訪問するよう伝えたとの見方が広がっている。この提案、招待は8月上旬にシンガポールで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムなど一連の会談の場で北朝鮮に手渡された大統領の委員長宛親書でなされたという。

 国連総会での第2回首脳会談の可能性は、シンガポール会談の直後からとりざたされていた。今回のトランプ提案の真偽はともかく、大統領が再会談を望むことは大いにあり得るだろう。しかし大統領は、次回会談で何を話そうというのか。6・12以後の焦点は、核が廃棄されるかどうか、いいかえれば、北朝鮮が着手、実行しさえすれば問題は解決する。いまさら話し合うことなどなかろう。北朝鮮が具体的な行動を起こした“褒美”としての首脳会談、ホワイトハウスへの招待というのであれば理解できるが、そうでなければ、シンガポール会談同様、単なる政治ショーに終わってしまう。北朝鮮完勝の「続編」など、誰も見たくはない。

 トランプ大統領の次回会談への思惑は、あらためて金正恩を懐柔することだという。世界の首脳が集う国連総会という華々しい舞台で会談し、ホワイトハウスに招待して金正恩に気をよくさせ、核廃棄を迫るということか。

 筆者は昨年、当サイトに掲載された記事で、同様の提案をした。『“斬首”より“別荘へようこそ”』(2017年4月14日)というタイトルで、当時取りざたされていた米軍による金正恩暗殺作戦ではなく、フロリダのトランプ大統領の豪華別荘に招いて歓待したほうが効果があるという趣旨だった。「あなたの政権は認める。国交を樹立して友人としてつきあおう」と自尊心をくすぐり、多額の経済協力を“お土産”として持たせて、「核開発だけはやめてほしい」と懐柔すれば、金正恩も従うのではないかという、希望的観測、やや突飛ともいえる提案だ。

 別荘に招待こそしなかったものの、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談は、まさに大統領による懐柔という展開だった。この会談についてあらためて触れる必要はなかろうが、覚えているだろう、記者会見でのトランプ大統領の発言を。金正恩を「1万人に1人の才能のある政治家」と持ち上げ、〝お土産〟というにはあまりに〝高価〟な在韓米軍の縮小の可能性にも言及、米韓合同演習への自己批判めいた言葉さえ口にした。

金正恩は目的を達した

 金正恩にとっては、この会談で自らの政権の存続を米国に認めさせ、世界に存在を誇示するという目的を達しただろうから、いままた会談するメリットがあるとは思えない。核放棄を決意し、その段取り、細部について真摯に話し合うというのならともかく、そうでなければ、トランプ大統領が懐柔に出てくるとはいえ、居心地は悪いだろう。金正恩は7月にトランプ大統領に宛てた親書の中で自ら第2回会談について言及しているというが、核放棄を実行しない限りリップサービスとみるのが無難だろう。

 首脳会談以後、北朝鮮はミサイルエンジン実験場の解体に着手したとも伝えられ、朝鮮戦争不明米兵の遺骨返還に応じるなど、とりあえずは前向きの姿勢を見せている。しかし、ミサイル実験場は、すでに不必要になった施設ともいわれ、遺骨返還は「信頼醸成」に過ぎない。いずれも、核廃棄に向けた本筋からはほど遠い。 

 北朝鮮に核放棄の意思などさらさらないことは、ポンペオ国務長官が7月25日に米上院で「核兵器の材料となる核分裂物質の生産を現在も続けている」と証言したこと、北朝鮮に関する米国の権威ある分析サイト「38ノース」が8月9日、寧辺の黒煙減速炉で冷却システムの改修工事が続いている可能性が高いーと指摘したことなどから明らかだろう。ミサイル施設の拡張工事が行われているという報道(8月1日、米ウォールストリート・ジャーナル)もある。

 米国内でもシンガポール合意に対する疑念、批判が出ている中で、トランプ大統領が再会談に意欲を見せるのはどんな思惑があってのことか。

 〝二番煎じ〟といわれることを覚悟のうえで、何らかの成果をあげて、内政での苦境を打開する糸口をつかみたいと言うことにつきるだろう。

 2016年の大統領選でのロシアの選挙介入、〝ロシア・ゲート事件〟の捜査進展、プーチン・ロシア大統領との会談での先方への迎合発言、関係のあったポルノ女優へ口止め料1400万円を支払った疑惑など、自らまいた種とはいえ、大統領はさまざまなスキャンダルを抱えている。ロシア・ゲートでは特別検査官が大統領本人への事情聴取を求めている。

 そして秋には、政権への有権者による評価ともいわれる中間選挙が控えている。その前哨戦、8月7日に行われたオハイオ州での上院補選では、共和党候補が勝利したとはいえ、ごく僅差で政権は肝を冷やした。同州は2016年の選挙でトランプ氏が勝利、当選へのはずみとなった州であるだけに大接戦は秋の選挙に暗い影を落とした。

 それやこれや考えると、効果を度外視して大統領が再び〝スペクタクル〟で主役を演じたいと考えても不思議はない。

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