西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年7月17日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 ドナルド・トランプ大統領は7月9日、引退を表明したアンソニー・ケネディ連邦最高裁判所判事の後任に、ワシントンDCの連邦控訴裁判所判事のブレット・カバノーを指名すると発表した。カバノーはイェール大学法科大学院卒業後ジョージ・W・ブッシュ政権の法律顧問を経て、2006年から現職にある。現在53歳で、81歳であったケネディ判事と比べて圧倒的に若い。連邦裁判所判事の任期は終身なので、カバノーが最高裁判事に就任すれば、以後20年以上、最高裁判所の判決に影響を及ぼすと予想されている。

ブレット・カバノー氏(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ政治において大きな役割を果たす裁判所

 ケネディ判事の引退表明後、各種メディアはその後任に誰が就くのか、それがどのような影響を及ぼすのかを盛んに論じていた。アメリカのみならず、日本を含む多くの国で、この件について報道されている。これは、日本の読者にとっては驚きではないだろうか? 日本では、最高裁判所の判事の名前を知っている人は少ないし、最高裁判事が新しい人に代わったとしても、このような報道がなされるとは考えにくい。

 裁判所判事の任命がアメリカで大問題になるのは、裁判所がアメリカ政治で極めて大きな役割を果たしているためである。日本では、裁判所は政治的な争いから距離を置き、中立の立場で正義を実現する機関という認識が強い。日本の裁判所は政治的見解が分かれる問題については判断を避け、議会に委ねる傾向が強い。だが、アメリカの場合は、多様な見解があって議会で決定することが困難な争点についてこそ、裁判所が判断する必要があると考えられている。アメリカでは、裁判所が統治機構の一つとして位置づけられており、政治的役割を果たすのが当然だと考えられているのである。

 裁判所の政治的性格の強さは、判事の任命方式の違いにも表れている。日本の場合、最高裁判所の判事は首相によって任命され、その後最初に行われる衆議院議員選挙に付随して行われる国民審査を受けることになっている。その他の裁判官については、資格任用制に基づいて任命されており、政治色はないと一般に考えられている。これに対し、アメリカの場合は、州レベルでも連邦レベルでも、裁判所の判事は政治的に任命されている。州の場合、多くの判事は選挙で選ばれるか、知事によって任命される。昨年11月、12月のWedge Infinityの原稿で取り上げたロイ・ムーアは(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11192 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11402)、当選すれば州の裁判所の中にモーゼの十戒の石碑を立てると公約し、アラバマ州最高裁判所首席判事に当選した。これは日本では起こりえない現象だといえるだろう。

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