西山隆行が読み解くアメリカ社会

2017年11月24日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)などがある。

 12月12日にアラバマ州で行われる、連邦議会上院の補欠選挙の共和党候補、ロイ・ムーアが、大きな注目を集めている。1979年に、当時32歳だったムーアが14歳の少女に性的関係を迫っていたことが暴露されたからである。他にも16歳の時にムーアに襲われたと証言する人も登場するなど、ムーアは30代前半の時期に10代の女性と関係を持とうと執拗に試みていたことが明らかになっている。アラバマ州では性的自己決定権を持つことができるのは16歳からとなっているが、それよりも幼い人も含めて、多くの女性に関係を強制しようとしたことが大問題となっている。

アラバマ州上院補選共和党候補のロイ・ムーア氏

 ムーアはこれまで、アメリカのみならず世界的にも何度か注目を集めたことがあった。それも、厳格なキリスト者として注目を集めていた。

 アメリカの多くの州では裁判所の判事を選挙で選出することになっているが、ムーアは2000年にアラバマ州最高裁判所の主席判事を目指す選挙で、州の裁判所の中にモーゼの十戒の石碑を建てることを選挙公約に掲げて当選した。主席判事に当選した彼は実際に十戒の石碑を建てたのだが、連邦最高裁判所から撤去するよう命じられた。だが、その命令を拒否したのを受けて、2003年に主席判事の職を追われている。

 ムーアは2012年にも再び州最高裁判所の主席判事に選出されたが、これまた職を追われた。2015年に連邦最高裁判所が同性婚を認める判決を出したにもかかわらず、それを無視して、同性婚を禁じるアラバマ州の法律を維持するよう命じたからである。

 ムーアは、政治の世界に神の真実と信仰を取り戻す必要性を強調している。中でも人工妊娠中絶や同性愛、婚外子の問題が蔓延していることがアメリカ社会を根本から揺るがしていると主張し、とりわけ同性愛行為は子どもに害悪を及ぼすことから違法にしなければならないと繰り返し主張していた。このように厳格にキリスト教倫理を守るよう説く人物が未成年の女性に性的関係を迫り、強制していたことは、言うまでもなく衝撃だったのである。

最も保守的な州の一つ、アラバマ州は共和党の地盤

 アラバマ州は全米中最も保守的な州の一つとされており、住民の50%以上が宗教的に福音派(エヴァンジェリカル)だとされている。福音派はアメリカの南部に多く、神と霊的に交わるという回心体験を重視していて、プロテスタントで独特の位置を占めている。

 アメリカのプロテスタントの主流派は、隣人愛や慈善を重視した活動を展開している。だが、多民族性、多人種性を特徴とするアメリカで隣人愛や慈善活動を重視すると、人種問題に直面せざるを得なくなる。奴隷制の問題を抱えていた南部ではとりわけ、この問題は顕著となる。そこで南部では、隣人などに気をまわすよりも自分自身に特化し、聖書の文言を一言一句厳格に守ることによって自らの信仰の純正さを神に訴えかけようとする信仰スタイルが発達した。このような原理主義的な解釈をする人のうち、政治問題に強い関心を示す人々のことを福音派と呼ぶことが多い(ただし、異なる使い方をすることもある)。

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