Washington Files

2018年8月13日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 かつて世界の発展途上国の模範ともされてきたアメリカ民主主義が、ピンチに立たされている。トランプ政権発足以来、政府暴走の抑制をめざした「三権分立」が有名無実化しつつあるからだ。

 「アメリカ民主主義危機論」が、とくに今年に入って全米のメディアで真剣に論じられてきている。

 「トランプ大統領は司法省によるロシア疑惑捜査をひんぱんに批判し、政権への同調を拒むテレビや新聞を敵視するなど独裁主義的姿勢を強めており……アメリカン・デモクラシーは今や歯周病にかかっている」(4月27日付けニューリパブリック誌)

 「大統領は嘘で固めたツイートで自分の意に沿わない政治家や官僚、メディア攻撃を繰り返し、絶対的な忠誠を誓う人物たちだけで政権を固めている。わが国民主主義の根幹を揺らがしかねない存在となりつつある」(2月18日付けロサンゼルス・タイムズ紙投書欄)

 「大統領は同盟諸国に敵対的姿勢をとり、中米からの不法移民取り締まりのためにメキシコ国境を何千人もの国境警備隊で固め、今また中国相手に貿易戦争を仕掛けている。国内ではワシントン・ポストやCNNテレビなどに対し個人的な激しい口撃を繰り返している…今トランプ政権で最も危険なことは、アメリカン・デモクラシーへの攻撃が激化していることである」(5月8日付けシカゴ・サン・タイムズ紙へのロバート・ライシュ元労働長官寄稿文)

 「最近のハーバード大学政治学部教授の指摘によれば、民主主義体制は軍人のみならず、選挙で選ばれた政治家によっても転覆される場合もある…反体制派の正当性の否定、自由民権運動の弾圧、民主的組織の否定、言論の自由の抑圧のいずれの面においても、前世紀以来、全体主義的要件を満たしているのは現下のトランプ大統領が初めてである」(4月13日付ニューヨーク・タイムズ書評欄)

8月11日、ニュージャージー州のトランプ・ナショナル・ゴルフクラブのクラブハウスで支援者であるライダーたちと撮影に応じるトランプ大統領(AP/AFLO)

 なぜこのように危機意識が高まって来たかと言えば、昨年1月トランプ政権発足以来、ホワイトハウスへの権限が著しく集中してきたからに他ならない。

 もともと立法・行政・司法の三権からなる「アメリカ合衆国」は1787年、連邦議会の前身であるフィラデルフィア「制憲会議」の決定により正式に成立した。従って、憲法第1条で立法=連邦議会の機能と権限が最優先で規定されたのは当然のことだった。行政=ホワイトハウスについては、第2条で定義され、その「機能」はあくまで議会で成立した「法律の執行」が主体とされた。すなわち議会主導の国の統治が明確だった。

 壮大、荘厳なつくりの連邦議事堂とくらべホワイトハウス自体、建物も敷地も意外なほど控えめなのも、実は両者の権限と威厳の違いをそのまま反映したものだった。

 ところが、その後時代の経過とともに、ホワイトハウスの長である大統領の存在と権限が拡大し、議会は内政、外交の両面において大統領の方針と意向に振り回されるようになった。そして今日、トランプ政権の下で共和党議会はホワイトハウスの顔色をうかがうだけの存在となり、法案審議のみならず政府の暴走に歯止めをかけるための本来の機能を果たせなくなりつつある。 

 筆者はかつてワシントン特派員として、カーター民主党政権(1977~81年)、レーガン共和党政権(1981~89年)、クリントン民主党政権(1989~97年)の各時代を直接取材してきたが、現トランプ政権下でのような、ホワイトハウスと議会の立場の劇的な逆転ぶりを目の当たりにするのは初めてといっていい。議会は今やほとんどホワイトハウスの「イエスマン」と化した感がある(本欄7月9日付け「『トランプ党』になり下がった共和党の悲哀」参照)。

 以前なら、たとえば、ホワイトハウスが検討中の新たな軍事戦略を事前に知りたいときには、議会軍事委員会の上級スタッフに接触すれば、ある程度の内容がわかった。ホワイトハウスと議会のスタッフ同志は普段からつねに連絡を取り合い、政策調整を密にしていたからだった。

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