Washington Files

2018年8月6日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。現在、神田外語グループ参与。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ大統領をめぐる個人的なセックススキャンダルのもみ消し問題が、ロシア疑惑の核心にも迫りかねない意外な展開を見せ始めている。その発端は、FBIの家宅捜索を受けたトランプ氏のかつての腹心の供述からだった。 

 トランプ氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が、自宅、オフィス、長期滞在用ホテルの自室をFBIに急襲され、電話記録、パソコン・データなど膨大な量の証拠物品を押収されたのは、去る4月9日早朝のことだった。

左から、トランプ氏、コーエン氏、ダニエルズ氏(AP/Aflo)

 FBIは当初、トランプ氏がかつて親しく交際していたとされる元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんにコーエン氏から口止め料として13万ドルが支払われたことに関連して、銀行法、税法面で抵触する疑いから捜査に踏み切ったが、その後、コーエン氏の検察側との取引による供述などから、たんなるプライベートな醜聞にとどまるどころか、米露関係全体に大きな影を落としているロシア疑惑に直接つながる意外な展開となってきた。
 
 とくに米国主要マスコミが注目するのは、二つの側面からだ。

 まず一つ目は、米大統領選最中の2016年、トランプ選対本部が置かれていたニューヨーク・マンハッタンの「トランプ・タワー」内での極秘会談をめぐるものだった。

 同年6月9日に行われたこの会談には、トランプ陣営からトランプ候補の娘婿で当時、デジタル・ソーシャルメディア作戦担当者だったジャレッド・クシュナー氏、選対本部長の重責にあったポール・マナフォート氏、政治担当顧問役を務めた長男ドナルド・ジュニア氏のほか、ロシア側から弁護士、ロビイスト、不動産事業家、通訳らが出席した。

 会談目的についてドナルド・ジュニア氏は初めは「ロシアからの養子縁組問題についての意見交換」と説明していたが、その後ニューヨーク・タイムズの追及を受けて、ヒラリー・クリントン民主党候補に関してロシア側が入手したという「汚れた情報」を共有するためだったことを認めた。

 また、この会談に関しては、本当の目的が公表される直前まで、父親のトランプ大統領が外遊先からの帰途、エアフォース・ワンの機中で、長男になり替わって虚偽の説明文を自ら作成し、報道陣に流布させていたことも判明している。

 しかし、コーエン氏による爆弾発言が飛び出したのは、つい最近のことだ。

 「実は、この会談が設定されたことについて、当時トランプ候補自身が事前に知っており、会談推進を後押していた」

 CNNは7月26日、コーエン氏がトランプ候補と事前に秘密会談の実施について話題にしていたと報じた。さらに、この件に関しては「他の数人の人物」も知っており、詳細については、ロシア疑惑を捜査中のロバート・モラー特別検査官側に説明の用意があるという。

 これに対し、トランプ大統領は「当時、息子たちがクリントン候補攻撃のためにロシア側と会談したこと自体、一切知らなかった」と最近に至るまで否定し続けているが、もし、これがコーエン氏の指摘通りだったとした場合、ロシアによる選挙妨害に大統領候補として直接加担したことになるだけに、きわめて深刻な問題だ。

 ロシア疑惑についてはこれまで米側情報機関の調査で、プーチン大統領の直接指示のもとにロシア軍情報機関が米大統領選に介入した事実が公表されているが、モラー特別検察官は、このロシアによる対米工作にトランプ陣営が何らかのかたちで関わっていなかったかどうかに的を絞って捜査を進めている。

 もし、関わっていたことが判明すれば「共謀」(collusion)罪となり、関係者は重罰の対象となる。大統領にとって、コーエン氏に対する今後の捜査や当人の言動から目が離せないことはいうまでもない。

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