WEDGE REPORT

2018年10月30日

»著者プロフィール
閉じる

松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 2007年9月、東京家裁八王子支部の審判が確定し、百沢力が母トシ子の身上監護担当成年後見人、弁護士Mが財産管理担当成年後見人という事務分掌がスタートした。百沢は、一面識も無いMをパートナーとして押し付けられ、従うしかなかった。

(nito100/hayatikayhan/grinvalds/windujedi/iStock)

 成年後見人の事務分掌とは、親族後見人の立場で見れば過酷である。百沢トシ子名義の銀行口座の通帳は、長男で相続人である百沢の手を離れ、弁護士Mが管理するところとなった。つまり今や、トシ子の思いと関係なくMが彼女の金庫番なのだ。

 家裁は、先に述べた通り、妻がトシ子から受け取っていた月給8万円を問題視していた。Mは8万円の支給を打ち切った上、妻のこれまでの受領分から224万円の返納を求めた。筆者がMに対して18年6月に質問したところ、妻が行ったことは百沢の後見人の仕事の一部と判断したため、との回答を得た。

 だが百沢夫妻は「認知症の母が身の回りの世話の見返りとしてくれた毎月8万円を、赤の他人の弁護士Mが乗り込んできて打ち切り、200万円超を没収した」と受け止め、Mに心を開かなくなった。毎月1、2回は夫婦でトシ子の見舞いに施設へ通った。身上監護の行動として、交通費や手土産代、家族での会食費などはトシ子の財産から充当するのが、成年後見制度の本旨のはずだが「金を出してくれとMに頼むのが嫌で、自腹を切り続けた」と夫妻は証言している。

 筆者の成年後見人体験に基づけば、この出費は結構大きかったし、それを惜しまないことで、被後見人を力付けるとともに施設関係者の温かい見守りを促す効果があった。

報酬累計400万円
百沢は過労で倒れ退官

 ところで弁護士Mは、2008年から16年にかけて8月末締めで年間の成年後見人報酬請求を家裁に申し立て、家裁は認めてきた。Mは、この報酬をトシ子の口座から引き落とし受領してきた。突出して多いのが10年の113万3000円で、他の年は30万円から40万9500円の間で累計400万2000円に上る。

 報酬を支給するか否か、支給する場合の金額は家裁の一存で決まる。決定理由も開示されない。参考までに筆者は後見人を務めた5年間に平均年49万4000円の報酬を得てきた。これは身上監護と財産管理の二つの務めへの対価であり、これと比較すると事務分掌として財産管理だけを担う弁護士Mへの支給額は大きい。

 借金を返済しなければならない百沢力は、母の財産から報酬分が支出されていくのが苦痛となった。分掌審判から1年余が過ぎた08年12月、過労で1カ月ほど入院、東京消防庁を辞した。この時、52歳だった。

関連記事

新着記事

»もっと見る