2024年12月22日(日)

中東を読み解く

2018年10月15日

 サウジアラビア人ジャーナリスト失踪事件で、トランプ米政権がトルコとサウジのメンツが立つ形で手打ち工作を進めているとの観測が出てきた。トルコに2年間拘束されていた米牧師がこのほど釈放されたのもこの工作の一環と見られ、事態がこれ以上悪化しないよう、3国が政治決着に踏み出したようだ。

今回の事件でトランプ大統領はどのようなディールをするのか? 写真は今年5月20日、ムハンマド皇太子と会談した時の様子(REUTERS/AFLO)

「殺害映像は見ていない」

 釈放されたのはアンドルー・ブランソン牧師。牧師はトルコのクーデター未遂事件に関与したとして2016年10月にトルコ当局に逮捕、拘束されていたが、この12日、裁判所の命令で唐突に釈放された。エルドアン大統領の独裁支配が敷かれる同国で裁判所が独自に決定を下すことはあり得ない。大統領の政治的な意思に基づく釈放であるのは間違いないだろう。

 牧師をめぐっては、その所属する米国のキリスト教福音派が釈放を要求し、トランプ政権がトルコへ制裁を発動するなど両国の対立が続いてきた。福音派はトランプ大統領にとって最大の支持基盤。11月6日の中間選挙を前に牧師を釈放させ、同派へのアピールにしようと腐心してきた。釈放は大統領の与党共和党に追い風になると見られている。

 トルコは対米関係の悪化により8月には、通貨リラが年初と比べ4割も急落、物価が高騰し、深刻な経済不振にあえいでいる。だが、エルドアン大統領は米国の圧力には屈しないと反発を強め、冷却化していたドイツとの関係を修復するなど反米姿勢を見せていた。

 しかし、経済的な苦境から脱却するには、米国との関係を正常化する以外にないのも実情。このため、エルドアン大統領はトランプ政権とよりを戻す機会をうかがってきた。そうした時に、イスタンブールのサウジ領事館で反政府のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の失踪事件が起こった。

 トルコ側は同氏が入館後にサウジ本国から来た暗殺チームに殺害されたとし、地元紙や米ワシントン・ポストによると、殺害を証明する映像と音声記録があると米政府に伝えている。トランプ大統領は13日、この映像を見たかと記者団に聞かれ、「見ていない」と述べた。録音は同氏が着けていた米アップルの腕時計端末「アップルウオッチ」を通じて行われたものとされる。

 エルドアン大統領はサウジの犯行を示唆しながらも、経済低迷の緊急事態を考慮し、石油大国で富裕なサウジとの関係をこれ以上悪化させず、なんとか失踪事件を軟着陸させたいというのが本音。だからこそ、サウジを激しく非難することを控え、事件を捜査する「合同作業部会」の立ち上げに合意した。


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