復活のキーワード

2011年7月25日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。

 失業者が急増したのは、改革によって余剰人員の大幅な削減が容易になった企業が、相次いでリストラを実施したからだ。結果、05年には失業者数が500万人を突破。失業率は12.7%にまで高まった。国民の不満は頂点に達し、遂にシュレーダー政権は退陣に追い込まれた。グローバル化の中で勝ち残るためには硬直化した労働市場を崩し、新規事業の参入を容易にし、若者の雇用を創造しなければならないというのが、この労働市場大改革の狙いだった。つまり「雇用を守る」という目先の対策ではなく、将来を見据えて「雇用を創る」ことを狙ったわけだ。

 その後、EU拡大の恩恵もあり、ドイツは世界一の輸出大国となった。また、ユーロ安が追い風となり、企業の収益率が劇的に改善することになった。図らずもシュレーダー前首相がターゲットとした10年には、失業率は7%にまで低下。失業者数は300万人割れと、90年代初めの水準にまで下がった。GDP成長率もプラス3.5%と、再び成長を取り戻したのである。

日本にも必要な
同一労働同一賃金

 では、日本はどうか。お気付きの通り、どうやら日本は逆の道を進もうとしている。厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」は6月7日、2025年度をメドに定年を60歳から65歳に引き上げ、希望者は65歳まで雇用するよう企業に義務付けることを求める報告書をまとめた。高齢者の活用や「生涯現役」に異論をはさむつもりは毛頭ない。だが、65歳まで働ける社会と、65歳までの雇用を企業に義務付けることはまったく違う。

 企業に雇用を義務付けることは雇用の流動性を失わせ、労働市場を硬直化することにつながるだろう。定年の延長は企業の活力を削ぎ、グローバル経済の中での競争に打ち勝つ力を失わせる。労働市場が流動化すれば、いくつになっても働ける社会はやってくる。

 ただ、その場合条件がある。「同一労働同一賃金」だ。欧州ではすでに「同一労働同一賃金」が定着しており、正規非正規の待遇格差はない。労働時間が50%のパートタイマーは50%の賃金、年金などの社会保障が支給される。同じ生産性ならば同じ対価というのが当たり前になっていれば、一度会社を辞めてもスキルさえあれば、再び同水準の賃金を得ることは容易になる。

 雇用の流動化に反対する声として、日本が労働市場の自由化を進めた結果、非正規雇用が増えた、という指摘がある。これも同一労働同一賃金のルールが無かったために起きたことだ。定年延長を義務付けた場合、60歳以上は給与を下げることを認めるのだろうか。そうなれば新たな格差問題が生じる。

 さらに、同じ仕事をしながら高齢者なら給与を下げられるなら、企業は誰も若者や働き盛りの労働者を雇わなくなる。高齢者の雇用を守ることで若年層の雇用を消滅させることになるのだ。

 政府は経営環境の悪化した企業が従業員を解雇せずに休業させたりした場合、国が給与の一部を助成する「雇用調整助成金」を支給し、企業に雇用を守らせることに躍起になっている。この制度の対象者は約167万人(11年5月)に達している。多額の税金を投じて、企業が賄いきれない人を雇わせる。こうした「雇用を守る」政策は、結果的に企業のリストラを遅らせ、淘汰されるべき企業を温存し、有為の人材を抱え込み、税金を浪費する。その結果、日本経済はどんどん活力を失っていく。

 今からでも遅くはない。日本も「雇用を守る」ことではなく「雇用を創る」ことに政策の軸足を移す時だろう。それが日本経済復活の第一歩だということを、ドイツの前例は示している。

◆WEDGE2011年8月号より


 

 

 


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