WEDGE REPORT

2018年11月21日

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松田康博 (まつだ・やすひろ)

東京大学東洋文化研究所教授

1965年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官、東京大学東洋文化研究所准教授などを経て、2011年より現職。近著に『現代台湾の政治経済と中台関係』(共著、晃洋書房)など。

 

 台湾の蔡英文政権が苦戦を強いられている。2018年11月24日に予定されている統一地方選挙は、20年の再選に向けての「中間選挙」的位置づけにあるが、支持率が上向かず、与党・民主進歩党(民進党)の候補に元気がないのである。

強まる中国からの圧力に対し、アメリカとの連携で対抗し、国内支持率の回復も狙う (REUTERS/AFLO)

 蔡政権は、16年に地滑り的勝利を収めたものの、就任後半年もしないうちに支持率が低落し、今や30%程度でほぼ固定してしまったからである。もしも統一地方選挙で敗北するなら、蔡英文は民進党主席を辞任しなければならなくなり、蔡英文への求心力は失われ、20年の再選に黄色信号がともる。

(出所)財団法人台湾民意基金会のデータを基にウェッジ作成 写真を拡大

 そもそも蔡政権はなぜ人気を失ったのか。悪化する中国との関係はどう作用しているのか。蔡英文が再選する条件はいったい何なのか。

 蔡政権は、馬英九・中国国民党(国民党)政権に対する怨嗟(えんさ)の声から誕生した。つまり、伝統的な支持層から中道の有権者にいたるまで、現状変更の強い期待の下に誕生した政権である。言い換えるなら、支持率低下は、いくつもの異なる期待に反した結果である。

 第一に、政権成立当初、清新さが足りなかった。蔡総統は慎重な政権運営のために、林全・行政院長(首相に相当)をはじめとして、「老人、国民党系、男性(老藍男)」といわれるベテランを配置した。このことにより、民進党支持層に、「自分たちの政権ではない」という悪印象を与えてしまった。

 第二に、政権成立当初から困難な構造改革を断行した。軍人、公務員、教員の年金改革は、受取額が減る人々の反発が強烈であった。労働基準法改正は、労働時間短縮につながったものの、決定が何度も覆され、労使双方に強い不満を残した。

 脱原発と代替の火力発電所建設は、経済界からの不安と建設予定地住民の反発を招いた。国民党が過去に取得した「不当財産」の差し押さえも、メディアからは政治的迫害との報道をされている。改革されるものは抵抗し、改革支持者はその進展が遅いと不満を持った。

 第三は、中国を刺激しない現状維持政策である。蔡政権は、中国と馬政権との間の「一つの中国」に関わるコンセンサス(92年コンセンサス)を受け入れない一方で、「台湾独立路線」を封印している。中国を挑発することで、対米関係を不安定化させないためである。しかしそれでも中国との関係は悪化し、ビジネスチャンスを失った業界からは批判が起き、同時に独立派からは、物足りないと突き上げられている。

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