チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年9月10日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 中国が、台湾に対して軍事的圧力を強めている。中国メディアによれば、中国海軍は、2018年8月10日から13日にかけて山東省青島沖で軍事演習を行った。台湾の蔡英文総統が同月12日から20日の日程で中南米各国を訪問したのに合わせて、台湾に圧力をかけたものともいわれる。

 中国が気にしているのは、中南米各国を訪問する際に経由地としている米国において、蔡英文総統が講演などを行なって台湾の存在感を高めていることだろう。蔡英文総統は、19日、復路で立ち寄った米国において、米南部ヒューストンの米航空宇宙局(NASA)のジョンソン宇宙センターを訪問した。

 米国が、現職の台湾総統による米政府機関の訪問を公開するのは初めてのことである。この訪問については、台湾でも政治性は低いと認識されている。すでに米国が台湾の地球観測衛星開発に協力していることなどがあるからだ。それでも台湾側は、米国と台湾の高官の相互訪問を促す「台湾旅行法」の成果と受け止め、歓迎している。蔡英文総統はまた、往路で立ち寄ったロサンゼルス郊外のレーガン元大統領を記念する図書館において講演し、台湾への武器供与を重視した同氏をたたえた。

中南米歴訪の際に米国をを経由した台湾・蔡英文総統(写真:ロイター/アフロ)

台湾問題に対して中国が譲歩できない理由

 こうした台湾の米国における存在感の向上は、中国の米国におけるパブリック・ディプロマシーの行き詰まりとも相まって、中国自身の警戒感を高めている。しかし、中国は、経済的にも強い圧力をかけられている米国を強く非難することはできない。すでに、米国の経済的圧力は中国経済にダメージを与え始めている。さらに、中国経済へのダメージは、習近平総書記の対米政策および経済政策の失敗として、習近平総書記の政敵たちから同氏に対する攻撃の口実となっている。

 経済的圧力に外交的・軍事的圧力を絡めて中国を抑え込もうとする米国と、外交的・軍事的問題においても衝突すれば、習近平政権の権威が失墜しかねない。経済の失速が国内政治および社会の不安定化に直結するため、中国は米国とのこれ以上の衝突を避けながら、台湾の独立を阻止しなければならないのだ。

 しかし、中国にとって、台湾問題は米国に譲歩することができない問題である。台湾の統一は、中国共産党の統治の正統性に関わる問題だからだ。国共内戦において国民党が台湾に撤退して以降、現在に至るまで、台湾統一は、中国共産党にとって必ず成し遂げなければならない課題であり続けている。領土の統一は、鄧小平氏の指示でもある。

 台湾の独立を許すようなことがあれば、中国共産党指導部の権威は失墜し、政敵からの批判にさらされるばかりでなく、国民からの信頼も失ってしまう。それ故、中国は台湾に対する軍事的圧力を高めざるを得ないのだ。

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