チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年9月10日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

新聞に「宣戦布告の最後に用いる表現」も

 中国軍は2018年7月中旬にも浙江省沖で実弾演習を実施した。中国メディアは、演習海域は台湾本島の北側約300キロメートルの広範囲で、専門家の分析として「台湾独立派の分裂主義者のために行われた実弾演習だ」と述べている。さらに、新聞記事の表題に、中国が宣戦布告の最後に用いる表現を用いたという。台湾メディアによれば、中国官製メディアがこの表現を過去に用いた3回の後には、必ず武力紛争を起こしていた。3回の武力紛争とは、中印国境紛争、ダマンスキー島事件、中越戦争を指す。

 中国は、同年4月にも浙江省沖で実弾演習等を実施し、台湾に圧力をかけている。中国海事局は、4月21日、台湾が実効支配する馬祖島の北側約450キロメートルの浙江省舟山群島周辺に、24、25日の両日、実弾演習を行うとして航行禁止海域を設定した。中国軍は、同月18日にも福建省泉州市で実弾演習を実施し、また、同日から3日間連続でH-6大型爆撃機が台湾を周回飛行し、20日には訓練空母「遼寧」を含む中国海軍の艦隊が、台湾南東沖で対抗演習を実施したばかりである。

 この時は、中国の台湾事務弁公室の報道官が、「演習のメッセージは明確だ」とした上で、「台湾独立勢力が勝手な振る舞いを続けるなら、さらなる行動をとる」と述べ、中国の警戒感を露わにしている。

 中国が台湾独立に対する警戒感を露わにするようになったのは、2018年に入ってからではない。中国軍のH-6爆撃機は、2016年末から繰り返し台湾を周回飛行している。2016年末には、「遼寧」が台湾東側海域を南に向けて航行し、翌年1月には台湾海峡を北に向けて航行した。つまり、台湾を周回航行したことになる。この時、軍を統帥する蔡英文総統は台湾と外交関係があるニカラグアの大統領就任式典に出席しており、外遊中であった。台湾の外交活動に対して不満を表明するとともに、指揮官不在の台湾軍に圧力をかけたのである。

台湾進攻に必要な軍備増強を進める中国

 中国は、台湾に武力侵攻するための武器装備品の調達を進めている。例えば、台湾に対する上陸作戦を実施するために不可欠となる揚陸艦である。以前は、中国海軍は、陸軍の台湾進攻を支援するための十分な輸送能力を有していないと評価されていたが、現在では、すでに、最新型の揚陸艦として、満載排水量が17600トンにもなる「071型/玉昭型」揚陸艦を4隻保有している。

 それに加えて、中国は大型の強襲揚陸艦を建造しているというのだ。香港メディアによれば、中国は075型強襲揚陸艦を建造中で、2020年に就役予定である。同艦は、全長250メートル、全幅30メートル、排水量は約4万トンにもなるとされる。そうなれば、世界の強襲揚陸艦の中でも最大級だ。排水量40500トンである米国のワスプ型強襲揚陸艦に匹敵する大きさである。同艦は、全通甲板を採用し、30機のヘリコプターを搭載可能だとされる。同時運用可能機数は4機で、水陸両用車をはじめとする各種上陸ツールも運用可能だ。

 揚陸艦だけではない。台湾に武力侵攻するためには、まず、航空優勢を獲得しなければならない。ロシアメディアは2018年7月下旬、ロシアの最新鋭地対空ミサイル・システムであるS400を中国に引き渡したと報じた。S400は、ステルス戦闘機およびミサイルを迎撃する能力を持ち、最大射程は250キロメートルとされる。中国の福建省に配備されれば、台湾の防空が著しく損なわれることになる。

 台湾進攻に必要だと考えられている軍備の増強は、中国指導部の危機感を示すものだ。そして、台湾に対して積極的な支援の姿勢を示す米国の動向が、なお一層習近平指導部の危機感を強めるものとなっている。2018年7月7日、台湾の国防部(「部」は日本でいう「省」)は、米海軍のイージス駆逐艦2隻が、同日、台湾海峡を航行したと発表した。台湾が、米海軍艦艇の動向を公表するのは異例のことだ。中台統一を狙って台湾への圧力を強める中国を、米台が連携してけん制した可能性もある。中国側は翌日、「我々は受け入れられない」と反発した。

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