Washington Files

2018年10月22日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 11月6日の米中間選挙は、トランプ政権の真価が問われるだけでなく、結果次第では国内のみならず世界にも大きな波紋を投じる可能性を秘めている。ここでは、野党民主党が下院を奪回した場合と、共和党が両院で引き続き多数を維持した場合のふたつのシナリオを下に、年明け後、内外の景色がどう変わるかを予測する―。

 筆者はワシントン特派員時代、1978年(カーター政権)、1986年(レーガン政権)そして1994年(クリントン政権)の3回の米中間選挙を取材してきた。例年なら大統領選挙とくらべ有権者の投票率も平均2割以上も低下し、盛り上がりを欠くところだが、今回ほど熱気のこもったケースは過去にも珍しい。民主、共和党陣営が投じた選挙資金も約40億ドル(約4400億円)と史上空前規模に達した。

 米国マスメディアは1年以上も前から異常なほどの関心を示し、早くも「選挙後何が起こるか」についてさまざまな見方まで出始めている。

 以下に2019年以降に変わると予想されるアメリカと世界を展望する。

(WD Stuart/Gettyimages)

シナリオⅠ<民主党、下院奪回の場合>

【アメリカの景色】

(1)トランプ大統領の税申告内容徹底調査 

 アメリカの歴代大統領は就任に際し、自らの過去の個人所得と確定申告内容を国民の前に公表してきたが、トランプ氏はマスコミや市民団体からの度重なる要求にもかかわらず、これを拒否し続けてきた。

 しかし、下院を民主党が制した場合、真っ先に指摘されているのが、闇に包まれてきたトランプ氏の過去の所得実績と納税申告の本格的追及だ。

 具体的には、政治家や高級官僚の不正ににらみをきかせる強大な権限を持つ下院監査委員会の委員長ポストが共和党のトレイ・ガウディ議員からエリジャ・カミンングズ民主党議員に交代するため、政権発足以来初めて本格調査がスタートする。

 下院議長に返り咲きが見込まれているナンシー・ペロシ議員は早くも今月11日、サンフランシスコ・クロニクル紙とのインタビューで「われわれが下院で勝利した場合、真っ先に着手するのは、トランプ氏の納税内容を明るみにすることだ。私はそれを約束する」と強調した。

 下院歳入委員会の次期委員長就任がうわさされるリチャード・ネール民主党議員もCNNテレビ番組の中で、「大統領が率先して税申告内容を公表してくれることを望むが、それが実現しない場合、別の方法を考える」と語り、法的措置も辞さない構えを示した。

 すでにニューヨーク・タイムズなどの調査によると、トランプ氏は父親から何億ドルにも上る資産の譲渡を受けながら、ほとんど相続税を払っていなかったことが明らかになっているが、下院委員会の証人喚問など強制力を持った本格調査でその後も“税逃れ”の実態が解明されれば、トランプ氏はきわめて苦しい立場に追い込まれることになる。

(2)ロシア疑惑再調査

 2016年米大統領選挙へのロシア介入とトランプ陣営との共謀疑惑に関する議会での真相究明は、これまで上下両院とも与党共和党が制してきたため、形式的な調査のみで事実上“幕引き”となった。

 しかし、下院を民主党が制した場合、情報特別委員会および政府活動委員会などで、
疑惑の中心的存在となっているトランプ氏の長男ドナルド・ジュニア、義息ジャレッド・クシュナー各氏らが重要参考人として喚問され、再び真相究明に一段と拍車がかかることが予想される。

 さらに、議会とは独立して捜査を進めてきたモラー特別検察官も、議会調査の本格化と合わせ、急ピッチで最終報告作成に取り組むことになり、その内容次第では、大統領弾劾の可能性も視界に入って来る。税調査と合わせトランプ氏にとって深刻な懸念材料だ。 

(3)メキシコ国境壁構想の挫折

 大統領が鳴り物入り進めてきた「国境の壁」建設計画が、予算審議で絶大な影響力を持つ下院歳出委員会の委員長ポストが民主党に移ることにより、とん挫することが十分考えられる。

 大統領は建設総コストとして200億ドルの支出を見込んでおり、議会に対し早期承認を要求し続けている。これに対し、上院はとりあえず一時的に50億ドルの支出を可決済みだ。

 しかし、民主党が下院を制した場合、200億ドルの予算計画は否決され、50億ドルについても、見直しが行われる公算が大きい。

 不法外国人の入国阻止を意図した壁建設構想が挫折することになれば、大統領が就任前から重視してきた「アメリカ・ファースト」の看板自体にも、汚点を残すことになるだけに、トランプ政権へのダメージは大きい。

(4)オバマ・ケアの充実

 共和党政権がいったんは廃止を試みた医療制度改革「オバマ・ケア」が一部手直しを含めより一層充実した内容となる。共和党が上院で多数を維持した場合でも、2020年の選挙での有権者の反発を回避するため、支持せざるをえなくなる。

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