中東を読み解く

2018年10月21日

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 反政府サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害疑惑事件で、サウジ政府は10月20日、事件の関与を否定していた従来の姿勢を一転、記者の死亡を初めて認める声明を発表した。渦中のムハンマド皇太子については一切言及せず、容疑者18人を逮捕し、治安機関の副長官ら5人を解任した。説得性に乏しい発表で、疑惑はかえって深まった。

10月16日、ムハンマド皇太子と会談したポンペイオ国務長官(AFP/AFLO)

闇に葬られる懸念

 発表によると、カショギ氏はイスタンブールのサウジ領事館内で、帰国をめぐり容疑者らと口論になってけんか、死亡した。容疑者らは事件を隠蔽しようと図ったという。具体性に欠ける内容と言わざるを得ない。これら18人の身元は特定されていない。

 米ニューヨーク・タイムズがサウジ当局者の話として報じたところによると、逮捕されたのは取り沙汰されてきた15人の“暗殺チーム”に加え、運転手1人と領事館員2人だ。同氏は入館後、待ち構えていた容疑者らを見て逃げようとしたが捕まり、1人に首を絞められて窒息死した。遺体は地元の協力者に引き渡された。このため容疑者らは遺体の最終的な処分について知らないという。

 だが、この当局者の話は、トルコ当局が保有している殺害時の音声録音とは全く異なる。音声録音では、指を切断されるなどの拷問を受け、最後は生きたままばらばらにされて死亡したとされている。最初から殺害のために待ち伏せされた疑いが濃厚だ。米情報機関も「トルコの情報を信頼に足る得るものと判断している」と報じられている。

 しかし、トランプ大統領はこのサウジの発表を「大きな一歩。信頼する。問題解決に近づいている」と評価した。大統領は反発する米議会がサウジ制裁に動いた場合でも、自分のまとめた武器売却契約に影響を与えないよう望んでいるとも述べ、あくまでもサウジとの関係を重視する姿勢を示している。

 大統領のようにサウジの発表を評価するのは少数派だ。米下院情報委員会の民主党の幹部は「発表は信頼できない。トランプ政権が真相究明に動かないなら、議会がやる」と述べている。与党共和党の有力議員らも発表に懐疑的で、全面否定から過失で死亡したとの筋立てに不信感を募らせている。

 ベイルートのアラブ筋は「サウジの発表は合理性も説得性もない。要は事件を指示したという疑惑の中心、ムハンマド皇太子の関与を否定するためのシナリオだ」と指摘。作戦の全容や容疑者たちの役割などが解明されないまま、「一件落着として闇に葬られる懸念が強い」としている。

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