中東を読み解く

2018年11月6日

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空母「セオドア・ルーズベルト」(REUTERS/AFLO)

 トランプ米政権は11月5日、イラン原油の取引を禁じる制裁を発動した。イラン核合意の離脱に伴う第2弾。歳入の6割を原油輸出で稼ぐイランにとってはまさに国家的な危機であり、「米国に死を」と全土で反発が広がった。だが、両国の軍事的緊張が高まる恐れの中、ペルシャ湾など中東海域に米空母機動部隊が存在しないという異例の事態が生まれ、米軍内に懸念が生じている。

ゲーム・オブ・スローン

 今回の制裁はイランの700を超える個人や企業が制裁対象。米国はイラン産原油の輸入を停止するよう各国に求め、応じなかった外国企業などに対し、米国の市場や金融システムから締め出す「第2次制裁」を課す方針だ。すでに「第2次制裁」を恐れる各国企業はイランから撤退した。

 トランプ政権は日本を含む8カ国を6カ月の限定付きで制裁から適用除外、イラン産原油の輸入を認めるとし、日本政府にはその旨伝えられている。トランプ大統領は10月2日のツイッターで「制裁がやってくる」と厳しい顔貌の自らの写真を掲載し、中間選挙を直前に強硬姿勢を誇示した。

 しかし、これは米国の人気テレビドラマ「ゲーム・オブ・スローン」の「冬がやってくる」という“敵の襲来”を警告するフレーズをもじったもので、一部で批判を呼んだ。大統領のツイッターについてポンペオ国務長官は「大統領はイランのテロ政権に歯止めがかかることを世界に告知しただけ」と擁護した。

 イランは制裁に強く反発した。最高指導者のハメネイ師は「制裁はイラン経済の停滞を狙っているが、われわれは自給自足の道を歩んでいる」などと対抗心を露わにした。制裁が発動された前日の4日はイラン革命当時、テヘランの米大使館占拠事件が起きた記念日。大使館前に集まった参加者らはトランプ大統領の人形や星条旗に火を付けるなどして気勢を上げた。

 だが、追い詰められているのがイランであることは疑いないところ。イランの原油輸出は日量約220万バレル(17年)だったが、10月の第1週は100バレル強に落ち込んだ。米国が核合意から離脱した5月以来、通貨リヤルは70%も下落、物価が高騰し、失業が急増するという3重苦に悩んでおり、これ以上経済が落ち込めば、国民の不満はロウハニ政権に向かうことは必定だ。

高速艇1000隻にどう対処

 トランプ政権はイランを経済的に締め上げて孤立させ、核だけではなく、ミサイル開発や中東各地のシーア派武装組織への支援をやめさせることを目標にしている。イランは米国が離脱した後も、英仏独中ロの5カ国と核合意を守る方針だが、あまりに追い詰められると牙をむく恐れも出てこよう。

 ロウハニ政権はトランプ氏が政権にある間はなんとか耐え抜き、次の大統領と交渉しようという腹だ。だが、穏健なロウハニ政権と敵対する保守強硬派が忍耐強いかどうかは分からない。心配されるのは強硬派の革命防衛隊の跳ね上がり分子が暴発しかねないことだ。

 こうしたイランの暴発を押さえる抑止力がペルシャ湾やアラビア海で臨戦態勢を取る米空母機動部隊だ。だが、米ワシントン・ポストによると、ペルシャ湾にいた空母セオドア・ルーズベルトが3月に太平洋に移動して以来、空母機動艦隊が中東海域に不在という異例の事態が続いている。

 艦隊に属する最新鋭のステルス戦闘機F22などの航空部隊も一緒に移動し、攻撃力も低下している。パトリオット迎撃ミサイル・システム4基も移送され、イランの弾道ミサイルへの備えも不足している。イランは先月、シリア東部の過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点をミサイル攻撃し、実戦力を見せつけている。イランは2000発のミサイルを保有していると見られている。

 今回の空母不在は中国とロシアという「戦略的な競争相手」に備えるためで、米国が9・11以来重視してきた「テロとの戦い」からの転換を示すものでもある。しかし、米軍当局が最も恐れているのはペルシャ湾の革命防衛隊の高速艇による挑発行動だ。革命防衛隊は約1000隻の高速艇を保有しており、これまでもたびたび米艦船への接近を試みてきた。

 空母機動部隊が不在の中、米軍は駆逐艦4隻をペルシャ湾などに配備しているが、高速艇が石油の動脈ホルムズ海峡などに機雷を敷設するような行動に出た場合、即応対応に支障が出る懸念もあり、どう対処するか苦慮しているようだ。

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