中東を読み解く

2018年10月27日

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 反政府サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件で、サウジは発表を二転三転させて杜撰(ずさん)さぶりを露呈、その信用を失墜させた。すべては疑惑の中心にあるムハンマド皇太子の関与を薄めるための苦し紛れの対応だろう。後ろ盾のトランプ大統領からも「史上最悪の隠ぺい」と非難され、政治決着の落としどころに苦慮している。

ロンドンでも行われたカショギ氏暗殺に対する抗議デモ(REUTERS/AFLO)

サウジの甘いヨミ

 事件が明るみに出てからのサウジの甘いヨミと危機管理能力の欠如には驚きを禁じ得ない。本国から暗殺部隊を派遣するという大掛かりな国家的犯罪であるにもかかわらず、犯行の地であるトルコの力を軽視し、トランプ政権の支持を過信した「ムハンマド独裁体制」が生んだ犯罪だった。その驕りが世界をなめ切ったいいかげんな対応に終始させたと言えるだろう。

 サウジ側の最初の発表は事件との関係を全面否定。カショギ氏の所在についても関知しないという内容。皇太子自身、「同氏はイスタンブールのサウジ領事館に入って2、3分か1時間そこらで出た」と説明していた。だが、トルコ側が録音音声から「同氏は殺害された」とリーク、国際的な批判が沸き起こった。

 これにサウジは2週間以上もたってから、「口論、けんかの末死亡」とお粗末極まりないストーリーを仕立て、死亡自体は認めざるを得なかった。しかし、あくまでも「偶発的な過失」として計画殺害であることを否定。サウジは同時に容疑者18人を拘束、カハタニ王室顧問や治安機関の将軍ら5人の解任を公表したが、つじつま合わせの発表という印象を残した。

 この発表では殺害が誰の命令や承認で実行されたのかなど、作戦の指揮命令系統が明らかにされなかった。このため王室顧問らがムハンマド皇太子と近い上、実行犯の一部が皇太子の警護要員だったことから、皇太子関与の疑惑がかえって増幅されることとなった。

 こうした中、沈黙を守ってきたトルコのエルドアン大統領が10月23日、国会で演説。カショギ氏が「計画的に殺害された」とサウジの発表に真っ向から反論、実行犯だけではなく、首謀者を明らかにし、容疑者18人をトルコで裁くため送還することなどを要求し、「同氏の遺体はどこにあるのか」と迫った。

 一方で大統領はムハンマド皇太子や証拠の録音音声などには一切言及せず、サウジとの対立を決定的なものにしないよう工夫もした。大統領は「危機の中からチャンスを作り出す名人」と称される裏取引の巧者だ。今後の政治決着と見返り獲得に含みを持たせた“寸止め演説”と言えるものだった。

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