野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2018年11月27日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

米中関係にも影響を与える「民進党の敗北」

 現在、中国は米国との関係が緊張ぶくみで展開していくことが予想され、米国が中国に対抗する意味でより大胆に台湾を庇護しようと動いた場合、台湾問題の解決が遠のいてしまう。「新冷戦」とよばれる米中対立のなかで、台湾を米国の対中カードにしないためにも、民進党の弱体化は中国にとって必要とされることだった。

 このように、二重の意味で、今回の民進党の敗北は、中国にとって極めて望ましいシナリオだったということができるだろう。早速、中国の台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光スポークスマンは「両岸(中台)関係の平和的発展の『紅利(配当)』を受け続けることで、経済や民生を改善したいという幅広い台湾民衆の希望を反映した結果だ」とこの選挙結果を歓迎する考えを表明した。

 今回の選挙では、台湾のフェイスブックや台湾で人気がある掲示板(PTT)に対して、中国のネット部隊「網軍」から台湾世論を誘導する書き込みが多数行われたとの指摘がある。トランプ当選に果たしたロシアからの対米世論工作を思わせるが、本当にあったことだとしても、決定的に選挙情勢を左右したとは思えない。基本はこの2年半の蔡英文総統の政治に対して、民衆の不満が積もり積もった結果、高雄市長に当選した国民党・韓國瑜氏が巻き起こした「韓流ブーム」によって、民進党が脆くも崩れてしまったというのが今回の選挙の大きな構図である。

習近平を慎重にさせる「悪夢の記憶」

 中国が長期的に最も恐れているのは、台湾がこのまま台湾本土意識をずっと強めていき、「台湾は台湾」であることをすべての人々が当たり前の事実として受け止めてしまうことだ。そうなると、中国にとっては統一をいくら叫んでも、台湾の民意が一致していれば、武力行使による「台湾解放」以外に何も打つ手はなくなってしまう。だがそれは米国と国際世論が容易に許すところではない。

 今回の台湾の統一地方選で民進党から国民党にトップが交替した高雄市や台中市には、その農・水産物を優遇したり、観光客を送り込んだりするなど目に見える「配当」を与えて、台湾社会に「親中・反中」の間で分断を作り出し、台湾人に選択を迫るような方向にもっていこうとするに違いない。

 ただ、台湾の人々にとって中国はあくまで遠い存在であり、台湾が独自の存在であることを脅かそうという行動が見えたときは、中国への警戒心が一気に高まるだろう。馬英九政権の時代も、台湾に「善意」の名のもとに多くのメリットを与えたが、結果として台湾本土意識はかえって強まり、中国への反発をもとに「ひまわり運動」を招いて民進党の勝利という悪循環を招いた。そうした「悪夢」の記憶があるだけに、中国は目下のところ好ましい方向に推移している台湾問題に対し、当面はなおさら慎重な姿勢を崩さないと見られる。

  
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