立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2018年12月9日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表兼首席コンサルタント

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。現在マレーシア・クアラルンプール在住、中国、ベトナムと東南アジアで活躍中。

 

 世界中の注目を集める中、G20での米中首脳会談が終わった。とりあえず合意された対中関税の第2段階引き上げの90日猶予、これをどう見るべきか。大方は「休戦」「停戦」と評しているなか、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞だけが12月4日付けの報道で、米中貿易戦争が「激化」していると伝えた。

米中首脳会談(写真:ロイター/アフ)

休戦ではなく、激戦の先送りに過ぎない

 一部の報道では、北朝鮮の「誤報」と指摘しているが、私はそう思わない。「中米(米中)貿易戦争が年末に差し掛かった今の時点でも緩和の兆しが見えず引き続き熾烈に繰り広げられている」という同紙の解説は仮説よりも、現状の反映ではないだろうか。

「休戦」も「停戦」も交戦当事者の合意により戦闘行為を停止することだ。主に全面的な戦争の終結(終戦)を目的とした場合に使われる用語である。しかし、冒頭で強調しているように、このたびの制裁関税の90日の猶予措置は、第1段階(現状)の10%から第2段階の25%への引き上げ分が対象であり、かろうじて戦闘状態の現状維持であり、休戦でも停戦でもなく、激戦を90日先送りしたに過ぎないのである。

 大胆な仮説になるが、そもそもトランプ大統領は「終戦」を当面の目標としていないのではないかとさえ思う。トランプ氏が目指しているのは、最終的な「戦勝」であって、当面の平和といった短期的利益を前提とする「休戦」や「終戦」ではないからだ。最終的な戦勝を手に入れるために、長期戦や激戦をも辞さないという腹積もりだったのかもしれない。

 ついにG20では「保護主義と戦う」という文言の首脳宣言への盛り込みを断念したのも、2週間前のAPECであった史上初の首脳宣言発出断念のような事態を避けるための妥協措置だったのではないか。一連の首脳会議は米中の対立がいかに深いかを浮き彫りにした。この溝は一時休戦や交渉で埋まる溝ではない。そもそも米中貿易戦争の根源を突き詰めると、その本質は通商問題でもなければ、経済問題でもない。政治問題だからだ。毛沢東いわく、政治とは流血を伴わぬ戦争である。故に「冷戦がすでに始まった」とある意味で理解しても差支えない。

 その辺の論点と文脈をもう一度整理してみたい。

政治とは流血を伴わぬ戦争である

 サプライチェーンの再編。

――結論からいおう。トランプ米大統領主導の対中貿易戦争、その最終的な意図はこれに尽きる。中国に整備されたサプライチェーンによって、安くて良質な「メイド・イン・チャイナ」が生産され、アメリカ国内の消費者もその受益者になった。市場経済メカニズムの産物である以上、資本主義市場経済体制の元祖、アメリカこそこれを尊重すべきだろう。

 しかし、事実は違う。いまトランプ氏はこの市場原理を横目にきわめて政治的な手段、大国の持ち得るすべてのパワーを動員し市場に介入し、政治で経済を制御しようとしているのである。アメリカの国家理念に反しているようにも思えるが、このパラドックス的な現象を解釈するのは実はそう難しくない。

 11月のAPECに出席した安倍首相は、自由貿易の重要性を訴えた。これは1つの正論、経済的な正論である。一方で、トランプ氏には他の正論がある。政治的な正論だ。どちらも正論だが、政治的正論が経済的正論に優先するのは政治家や支配者にとって当然のことだ。

関連記事

新着記事

»もっと見る