チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年11月3日

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高田勝巳 (たかだ・かつみ)

株式会社アクアビジネスコンサルティング代表

株式会社アクアビジネスコンサルティング 代表取締役。拓殖大学で中国語を専攻し、1984年より1986年まで中国の遼寧大学、北京大学での留学を経て、1987年に当時の三菱銀行に入行。1993年より同行上海支店開設のために上海に赴任。1998年に同行を退職後、上海で独立し、それ以来上海を拠点としたコンサルタントとして活躍。2002年より現職。この間、多くの日中間のビジネスにコンサルタントとして関与、最近は日系企業の顧客以外にも中国企業の対日投資並びに技術導入も支援している。中国の第一財経テレビ、香港のフェニックステレビの時事討論番組のコメンテーターとしても活躍している。

(Xinhua/AFLO)

 本年3月に私が寄稿した『中国が米国に感謝するが、日本には感謝しない理由』で、モンゴルの例をあげてこれまで中国国内において日本からのODAについて積極的な評価をあまり聞かなかった背景についての一つの考察を紹介した。そうした中、先月の安倍晋三首相訪中時に40年間続いた対中ODAが終了する旨安倍首相から伝達し、これに関し、中国のメディアでも色々な意見が述べられた。

 まず、10月23日の環球時報が面白い。単刀直入に「謝謝(ありがとう)」というべきか否かを問いている。筆者の詳細は不明だが、民族復興を唱えるブロガーらしい。いずれにせよ、中国共産党機関紙の人民日報の傘下の環球時報が取り上げているので、体制側の人なのであろう。

2018年10月23日 環球時報 補壹刀
『日本の対中ODA援助終了について、まず、「謝謝」というべきか?』
http://world.huanqiu.com/article/2018-10/13342611.html

 まず、筆者は、安倍首相のODA終了の通告を受けて中国の多くの「網民」(ネット住民)は、怒りとか不理解の態度を表明せず、これまでの援助に対して「謝謝」というべきと、表明していることを紹介している。政府がどうであろうと、民間の中国人民は素直にありがとうと言っているということのようだ。

 以下は、そこで紹介された「網民」声だ。

 「まずはありがとうというのが基本でしょう」

 「政府か教科書の中で誰が我々に援助してくれたかを言っていないし、自分も主体的に理解しようとはしていなかった。ただ、自身の経験として、中学校の時に日本人が私の町の学校に来て貧困の学生に資金援助したり、文房具をあげたりしていたことは知っている」

 「日本に感謝する。ただ、我々中国が戦争賠償を放棄したことも知らなければならない。当時戦争賠償はとても大きい金額で、ドイツなども最近になってやっとで払い終わったほどなので、日本は決して損はしていない。まして、貸し出しのほとんどは利息がついているので、少しばかり金融を理解している人は皆知っているが、1990年代の日本円の円高で、日本のその取引の中から多く儲けているはず。とはいえ、どうであろうと日本に感謝している」

 この筆者によると、これは一種の成熟した心持の表現だそうだ。「実事求事」(実際の状況に基づいて事物の真実を求める)の原則から出発し、感謝すべきは、惜しまず感謝し、責めるべきは、遠慮なく責めるべきであると、「網民」の態度を評価している。

 また、筆者の意見として、日本の対中ODAは、客観的に見て、中国の改革開放に実質的に大いに役に立ったと評価し、1980年代と90年代に分けて具体的な支援内容を紹介している。

 また一方で、中国の民衆は、日本のODAをよく知らないし、その評価もODAの総量が少ない米国のそれよりも圧倒的に低いとしている。この点は、上記の私の3月の寄稿内容ともお付合する内容だ。

 そして、中国の民衆にとっては、日本のODAは、全く友好的な援助とは言えないとも指摘し、戦争によって中国にもたらした巨大な損害から言えば、3兆円のODAは全く足らず、まして、その90%以上が利息のついた貸し出しであると釘を刺している。

 以前、反日運動が賑やかな頃、私のある中国の友人が、日本が戦争賠償をしなかったのは長い目で見れば、日本にとって賢い選択とは言えないということを言っていたが、なるほど、このように言われるのであれば、いっそ日本はODAではなく戦争賠償としてけりをつけた方が良かったのかもしれないとも思えてしまう。

 さらに筆者は、日本側の事情も分析してくれている。

 日本が対中ODAを終了させる原因は、失われた20年からの日本経済の低成長と中国の経済規模が日本を凌駕したことに対する矛盾した心理からくると分析している。

 そして、日本の「右翼」の中国批判として、中国は日本のODAを中国で宣伝せず、感謝しない恩知らずで、中国は日本のODAを利用して軍備拡張と対外援助に力を入れているという批判を紹介し、こうした批判は中国の民衆を激怒させているとしている。

 こうした批判は、「右翼」(中国のいう日本の右翼とは、おそらく「日本軍国主義」を讃え、もしくはそれを復活させようとする分子と理解していいと思う)に限らず、日本でよく耳にする言い方であるが、このようなすれ違いが起こる背景は、本年3月の私の寄稿で紹介した視点とともに日本が戦争賠償をしなかったことと関係があるかもしれない、と改めて感じた。

 戦争賠償であれば、中国が何に使おうと日本は文句を言えないし、感謝を期待することもない(しかしながら中国は戦争賠償の一部と思っている)。中国からの様々な批判に対しても、戦争責任に対して一つの責任の取り方としたことを明確に主張できるのでは。

 上記の見解は、おそらく、中国のメディアでより平均値に近い見方なのではないかと思われる。

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