ビジネススキルを活かして楽しむ脱力系子育てのススメ

2018年12月18日

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井上佳世 (いのうえ・かよ)

ライター

1965年生まれ。ライター、編集。教育、福祉、政治に関するインタビュー記事を執筆。実用書、ビジネス書、俳句を中心とした文芸書の編集にも携わる。

(Nadezhda1906/iStock/Getty Images Plus)

*育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんと当コラム執筆者の小川大介さんの対談後編。前編はこちら

現状肯定したうえで、
「正解は一つじゃない」という視点もあわせ持つ

小川:中学受験の個別指導教室で親御さんのカウンセリングをやっていてわかったのは、親御さんはみんな不安だということです。中学受験は、宿題チェックやプリントの整理など、親御さんのフォローなしにはうまく進みません。でも、親御さんも忙しいし、共働きであればなおさらです。日々の課題をすべてバッチリこなせるわけもないからこその不安が、どなたにも共通してあるなと思いました。塾を立ち上げてすぐの頃は、僕たちのほうから親御さんへ渡す課題を明確にして、やり方を教えるような関わり方をしていましたが、それだと親御さんの宿題が増えるだけなんですよね。

おおた:受験に熱心な親御さんは、みんながんばりますからね。さらに疲れちゃうでしょうね。

小川:そうなんです。また、最初の頃は、親御さんの目でお子さんにできることを探していただいて、それを僕らに教えてもらい、その子に合ったやり方を提案していました。でも、それも結局、親御さんへの課題になってしまいます。そこで発想を変えて、「お父さん、お母さん、あなたたちはどんなことが得意ですか」と、まずは親御さんのリソースチェックから始めることにしたんです。親御さんにできることを探して、それを組み合わせてやっていきましょうよ、と。

おおた:それは面白いですね。

小川:たとえば、お母さんに「得意なことを教えてください」と尋ねると、「本を読むのが好きなくらいで……、他は特にないですね」と申し訳なさそうに答えるんですね。そう言うお母さんは、本を読むのが好きなことは特別な力だと思っていないんです。なので、そこの意識をちょっと変えてもらえるように働きかけます。「お子さんよりも先に国語のテキストに目を通しておいて、お話を要約することはできますか」と尋ねると、たいてい「そんなことでいいんですか」と返ってきます。数字管理が得意なお父さんなら、宿題をチェックするときに完了したかどうかではなくて、どれぐらいの達成量で、どこに手をつけられていないのかといった棚卸をしてあげてくださいとお願いします。こんなふうにこちらが関わると、親御さんからお子さんへの関わり方にも変化が出て、次の面談のときには親御さんの中に自信が芽生えているんですね。

おおた:親御さんたちの現実を無視して「これが正解です」と提示するのではなくて、現状を肯定したうえでの行動指針につながるアイデア提起をするということですね。教育、進学、受験というと、どうしても世間で目立っている情報に振り回されがちです。だからこそ、自分たちの現実をよく見たうえで受け入れつつ、でも一方で「正解は一つじゃないかもね」という視野の広さも持っておく。情報を妄信していると、不安にさいなまれることになりますからね。

小川:今おっしゃったことって、まさに、おおたさんの『受験と進学の新常識』(新潮社)に書かれていることですね。この本でおおたさんは、既存の受験産業の機能も否定するわけでなく、教育や受験の情報を精査したうえでそれぞれに理解を及ぼしながら、「迷ったときはこう考えてみたら」とアイデアを示してくれています。そういうスタンスが、実におおたさんらしいなと思いました。受験や教育に関するほとんどのジャンルについての著作があって、多作でいながら、どの本にも通底するメッセージがありますよね。だからこそ、この本のように一つにまとめたときに不協和音を出さないんだと思います。

おおた:刊行直後、小川さんから「一貫性のある多様性」という言葉をいただいて、すごくうれしかったです。

小川:厚い支持を得ている理由がよくわかります。

おおた:僕のこの本を手に取ってくれる読者の中には、教育に関して意識が高い人もいると思います。そういう人たちは、すでに何らかの選択をしていると思うんですね。この本を読んだからといって、その選択をひっくり返すということは、まずないでしょう。でも、なぜその選択をしたのかという理由を言語化できるようになってくれたらいいな、ということを願って、僕はこの本を書いています。中には、中学受験させるつもりだったけど、これを読んでやめておこうと考えるご家庭もあるかもしれないし、逆に受験などさせるつもりはなかったけど、トライする方向へ舵を切るご家庭もあるでしょう。どちらにしても、読者自身がご自身の選択について自覚的になれるよう、「こっちの角度から見てみる方法もありますよ」「こういう補助線を引いてみたらどうでしょう」という提案ができればいいですね。

小川:この情報をどう使うかはあなたが決めればいいよ、迷うのはわかるよという、読者への共感がベースにありますよね。親御さんの自己理解のお手伝いをしている本だなと思いました。

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