この熱き人々

2019年2月25日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

グラフィックから立体造形へ。表現者としての自らの核を追い求め、たどり着いたのは吹きガラスの世界。ひたむきに熱いガラスと向き合い、日常になじむ美しい器を生み出す。

 加賀百万石の城下町・金沢といえば、加賀友禅、九谷焼、加賀蒔絵(まきえ)、加賀象嵌(ぞうがん)など、加賀藩の歴代藩主が伝統工芸や芸能の発展に力を尽くした遺産を受け継ぐ文化都市のイメージがある。北陸随一の繁華街・香林坊(こうりんぼう)から兼六園に向かう広坂通り。向かいが金沢城址、後方に金沢21世紀美術館と石川県立美術館という、現在と過去の文化の結節点のような場所に、ガラス作家・辻和美のギャラリー「factory zoomer/gallery」はあった。

 静かで落ち着いた町をゆったり散策する国内外の観光客が、町家を改修した45平方メートルの小さなギャラリーを覗いていく。手前のスペースでは辻の感性で選んだ作家の作品が紹介され、自身のガラス作品は奥のスペースに。壁に備え付けられた棚には、掌に包み込めるような小振りな器が並んでいる。辻の代名詞にもなっている、麺をちょこっと食べるのにいい「めんちょこ」や、「普通のコップ」「おさら」「小鉢」など。「ツブツブ」「デカマル」「ホリホリ」「ギザギザ」……それぞれ表情の違う器につけられた名前に心が和む。これらはサンプルで、ここで注文ができるが現在は1年以上待ちとか。辻の器を求める人がいかに多いかがうかがえる。

自由な発想で生み出される「めんちょこ」

 「生活の中で使うことで気持ちが上向いたり、さあ今日も頑張ろうと思えたりするような器を作りたい。それが私の基本にあります。モノを売っていくというより、モノに込めた概念を手渡していきたいと思っています」

 辻がガラスの器に込める思いは、生活の中で使われるモノを通して、人のよりよい暮らしを支えていきたいということ。その思いを「生活工芸」という言葉に託した。生活用品ではなく生活工芸品。

 

「日々使う食器でも、大量生産ではなくひとつひとつ手に思いを込めて作ったものには何かが宿っていると思っています。姿は食器でも、詰め込む思いは美術。このコップを眺めながら水を飲んで今日一日がんばってという思いを、丁寧に形にしていく。その器がしっかり仕事をしてくれれば、たとえ忙しくてスーパーの総菜ですませる時にも、トレイから自分の好きな食器に移してあげたら気持ちがちょっと上がってハッピーになれるかも。日常って大事だよね、日常って人間の生活だよね、そこにアートが入っていくことで人の心に寄り添えたらいいな、と思っています」

 辻のめんちょこは黒が基調のものが多いが、ドンと大きな水玉だったり、くるくる回る線だったり、カリカリ削った不規則で細やかな格子だったり、手にすると心が動く。何の構えもなくアートに触れ、自分の好きなものに気づき、美的感覚も磨かれる。生活とは、生きると活きるが重なっている。人とモノが生かし合い活かし合うことができれば、日常が光を放ってイキイキと輝けそう。エネルギッシュな辻を見ていると、ひとつの器が生み出す見えない波動がリアルに感じられる。

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