この熱き人々

2019年1月24日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

コンクリートと自然の素材を融合させ、光を巧みに取り込んだ建築で、日本を、世界を驚かせ続けてきた。建築を通して人や社会とどうかかわるのか、永遠の命題への挑戦を続ける。

 大阪市北区。機能的でよく似た表情のビルが建ち並ぶ幹線道路から路地に入ると、21世紀に20世紀が紛れ込んだような住宅街。その一角にコンクリート打ち放しの5階建ての建物があった。すぐに安藤忠雄建築研究所だとわかる。扉を開けると目の前に人々が働いていた。安藤忠雄といえば誰もが認める建築界の巨匠だから、当然受付があって、しばし待たされ……という展開を予想していたので、入り口を間違えたかとうろたえる。

 

 と、聞き覚えのあるちょっとしゃがれた声が間仕切りの奥から聞こえてきた。覗き込むと、そこに安藤の姿があった。玄関から入って1秒、わずか2、3歩の場所がボスのスペースなのかと、度肝を抜かれる。民間企業でも公的機関でも、組織のトップはおおむね上階の立派な壁とドアに囲まれた部屋にいる。が、安藤の居場所には壁もなければドアもない。5階まで吹き抜けだから天井すらない。「おーい」と呼べば全員に声が届くのだ。

 「すぐ行くから、先に4階に上がってて」

 見上げると4階の打ち合わせスペースが見える。エレベーターなどない。階段の途中で真っ赤なボクシングのグローブが目に飛び込んできた。壁面はすべて本棚で、建築関係の書物はもちろん、美術書、哲学書などあらゆる分野の本が混在している。

 やっとの思いで4階に辿り着くと、安藤は軽やかに上がってくる。2度の大病で死線をさまよった77歳とは到底思えない。翌週はミラノ、そしてパリ、さらに北京と世界を飛び回り、スケジュール帳は真っ黒。現在抱えている海外のプロジェクトは35件ほど、国内は15件とか。その元気さにまたもや度肝を抜かれる。

 2009年に胆嚢、胆管、十二指腸に癌が発見され、それらを全摘。驚異の回復力で完全復活したものの、5年後に再び膵臓に癌が見つかり、膵臓と脾臓を全摘している。

 「膵臓も脾臓もとって生きていけるかと先生に聞いたら、生きてる人はいるけど元気な人はいませんねと。それなら元気になったろか、ギネスに挑戦や思った。人生いろいろ問題が起こるけど、超えなきゃいかん。失敗なんか恐れずに生きないと」

関連記事

新着記事

»もっと見る