2024年11月22日(金)

家電の航路

2011年10月8日

 まずは、シャープ。世界初の「8K4K」液晶スーパーハイビジョンテレビの試作品を見るべく並ぶ。すると背中から「前田さん!」と呼ぶ声が。ソニー時代の知り合いの人らしい。早速飲み会の日程調整が始まる。さすが前田さん。

スーパーハイビジョンテレビの仕上がり具合

 解像度7680×4320を誇るスーパーハイビジョンテレビは、「おぉ」っと思わず声をあげるほど綺麗な画像だ。

 「こっちのほうが3Dテレビよりも立体的じゃないですか?」そう尋ねると、前田さんは「当然」という表情で頷く。

 「もともと、人間が立体を感じられるのは4~5mまでで、3Dの映像は擬似的なものなんだ・・・」

 前田さんは説明員に逆に説明をはじめてしまった。画素数が多いと奥行きが感じられるようになり、より実写に近く見えるのだそうだ。

 「実用化はいつぐらいを考えているの?」。説明員は「2020年くらいでしょうか」と答える。ただ、放送用には新たな帯域を作る必要があり、道のりは険しいだろうというのが前田さんの予想だ。

 スーパーハイビジョンに続いて、先日シャープが撤退を発表したと大騒ぎになった「ガラパゴス」の特性について前田さんが説明員に質問を始めた。ガラパゴスの電子書籍は出版・報道関係者は興味津々・・・と思ったところへ、テレビを軽々抱えたお姉さんが前田さんの後ろを通り過ぎた。

前田悟さんとシャープ「フリースタイルアクオス」

 「あれって、まさにエアボードじゃないですか?」と前田さんに声をかける。普通はテレビに内臓されているチューナーを外部に分離し、ワイヤレスで映像をテレビ本体に送る「フリースタイルアクオス」だ。32型は重さ5.5kgと従来モデルより約4割軽量化され、女性でも持てる軽さ・薄さがウリだ。

 前田さんが開発した「エアボード」は、世界で初めてテレビの映像を無線で飛ばして、持ち運びができるようにした10.4型の端末だ。今流に言えばまさに「タブレット」。それから11年。シャープは20、32、40、60型の4サイズを揃えた。

 カタログのスペックを覗き込む前田さん。「周波数帯は802.11b/g/n (2.4GHz)と802.11a/n (5GHz)か。エアボードと同じだ」と教えてくれた。

前田悟さんが開発したエアボード(2000年)
クリックすると拡大します

 エアボードのコンセプトが定まった当時、無線LANで映像を飛ばすことは不可能とされていたそうだ。最初に前田さんがエアボードの試作品を発表したとき、「これは標準規格ではないだろ」と研究者から言われたという。無線LANに関する標準規格、IEEE(アイ・トリプル・イー)802.11が定まったのは1997年のこと。最大通信速度は2Mbpsだった。その2年後、同じ2.4GHzの周波数で、最大通信速度が11Mbpsまで出る「802.11b」が規格化された。前田さんはすぐさま802.11bを無線伝送に使ってエアボードを商品化した。やはり、人がやらないことに挑戦しなければ、「世界初」の商品は生まれない。

シーテックで前田さんが最も気になったこと

 さて、いよいよ前田さんの古巣、ソニーのブースを訪ねた。

→次ページ:「人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのか分からないものだ」


新着記事

»もっと見る