オトナの教養 週末の一冊

2019年2月22日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 「免疫を抑える働きを阻害することでがんを治療する方法の発見」により、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑博士の講演と対談を収めたのが本書。本庶博士は一般読者向けに『遺伝子が語る生命像』(講談社)、『いのちとは何か――幸福・ゲノム・病』(岩波書店)を著しておられるが、本書は受賞後の最新刊であり、かつ、コンパクトで読みやすそうだと思い、手に取った。

2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑博士(写真:Shutterstock/アフロ)

基礎研究への投資の重要性

 本庶博士は1942年生まれ。京大医学研究科博士課程修了後、米国のカーネギー研究所、NIHで客員研究員を務め、1974年に帰国。東大、阪大をへて84年から京大医学部教授、医学部長などを歴任した。研究成果であるPD-1抗体治療法が、がん免疫療法に新たな光をもたらしたのは、ご存知の通りである。

 冒頭、「ノーベル生理学・医学賞受賞にあたって」と題する序文がある。短い文章ではあるが、受賞の喜びとともに、「1992年のPD-1の発見をはじめとするきわめて基礎的な研究が、新しいがんの治療法として臨床に応用され、そしてたまにではありますが、『この治療法によって病気から快復して、元気になって、あなたのおかげだ』と言われる時があると、本当に私としては、自分の研究が本当に意味があったということを実感して、何よりも嬉しく思っております」と、感慨を語っている。

 「幸運な人生」を歩いてきた、と研究生活を振り返る著者は、日本の高度成長期の経済発展や遺伝子組み換え技術の開発などとタイミングが一致し、「めぐり合わせが良かった」、「絶望して、もう駄目でやめようかと思ったことは一度もなかった」という。

 <基礎研究から応用につながるということは、しょっちゅうあるわけではありませんが、決してまれなことではなく、ライフサイエンスにおいてもこういうことはあるということを実証できたことで、ぜひ基礎研究にきちんとしたシステマティック、なおかつ長期的な展望でサポートして、若い人が人生をかけて良かったなと思えるような国になることが、重要ではないかと思います。>

 長い目で基礎研究への投資を、とはよく言われることであるが、ノーベル賞受賞者の言葉だけに説得力がある。

免疫学の中心課題に挑戦

 「序」に続き、2つの講演録がある。2016年の第32回京都賞記念講演、07年の第11回盛和スカラーズソサエティ総会講演で、いずれも京都で行われたものである。講演時の図版と話し言葉の簡潔さがあいまって、要点がすっと頭に入ってくる。難しい内容が門外漢にも十分伝わると思う。

 とりわけ「PD-1抗体発見への道のり――獲得免疫の驚くべき幸運とがん免疫治療――」と題する京都賞受賞時の記念講演は、興味深い。感染症と人類の闘いから始まって、進化の過程で人類が獲得免疫を得た幸運、分子免疫学との出合い、研究の道のり、PD-1抗体の特許出願と臨床治療、がん治療の展望まで、ノーベル賞を受賞した画期的研究の意義と裏側がよくわかる。

 同じノーベル賞受賞者である山中伸弥教授は講演が素晴らしく上手だが、本庶博士の講演は山中教授に勝るとも劣らないものと、本書から想像する。

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