2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2011年10月28日

アジア太平洋における新しい秩序の構築が、日本経済再生への道をつくる。
震災復興計画が遅々とする中で国内は混乱しているが、11月に開かれるAPECが近づき、再びその賛否が議論されているTPP。依然として反対の声が多いTPPだが、TPP参加は本当にデメリットばかりなのか?
TPP参加は日本経済に何をもたらすのか。そもそもTPPとは何か――。
日本・メキシコEPA(経済連携協定)で首席交渉官を務めた筆者が、TPPを明快に解説し、日本経済の活路を提示する。

――『TPP参加という決断』の執筆理由を教えてください。

渡邊頼純教授(以下渡邊教授):執筆の動機は2つあります。1つは、日本の通商政策の歴史の中で、TPPは一つの大きな区切りとなると感じているからです。

『TPP参加という決断』
渡邊頼純 著 (ウェッジ)
◇新書判並製、276頁 
◇定価:1000円(本体952円+税)
◇2011年10月31日発売

 GATT(General Agreement on Tariffs and Trade.:関税貿易一般協定)、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)という多国間主義一辺倒から、FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)、といった地域統合へと展開しはじめた時期に、私は外務省大臣官房参事官兼経済局に登用されました。そして、日本にとって2番目のEPAであり、農業問題が関わるという意味では初めてのEPAであるメキシコとの交渉に関わったこともあり、質の良いFTA、EPAを目指すという義務を、自分に課しています。その到達点とも言えるTPPが、日本にとって、アジア太平洋という地域にとって、意義のあるものになってほしいと考えています。

 2つ目は、TPPに対する誤解、曲解の多さ、正しい姿が伝わっていないことに焦りを感じたからです。「農業の自由化だけを狙っている?」「医療制度が崩壊する?」「単純労働者が大量流入する?」など、序章では、「TPPについてよく尋ねられる22の質問」として、一般の方が抱かれているであろう疑問に関して簡潔に解説しています。

 また、農業問題や政府調達、外国人看護士・介護福祉士については、それぞれ章を設けて問題の本質について詳しく説明していますので、ぜひ気になる部分から読んでいただきたいと思います。

――なぜ今TPPが日本にとって重要なのでしょうか。

渡邊教授:貿易交渉の舞台としては、本来ならばWTOがベストですが、残念ながらその多国間交渉である「ドーハ・ラウンド」が凍結状態にあります。TPP以外にも、経済連携の枠組みとしては、「ASEANプラス3」「ASEANプラス6」「日中韓FTA」などがありますが、これらの構想はまだ交渉モードに入っていません。このような状況で、TPPがアジア太平洋の9カ国を巻き込んで交渉に入っている以上、日本が「情報収集」という立場にとどまっていることは由々しき問題と考えます。

 私は、TPPを万能薬とは思っていません。日本が交渉に参加したとしても、うまくいく保証はありませんし、途中で凍結する可能性もあります。しかし、どのような結果になったとしても、「日本がアジア太平洋地域の経済の新しい秩序を作ろうとした」という事実は、他の交渉国からも評価されるでしょう。WTOの今後のラウンドや、日米FTA、ASEANプラス6など、あらゆる場所で日本が培った交渉のノウハウや知見が活かされると思われます。

――ずばり、政府はTPP交渉参加を決断すると思いますか?

渡邊教授:賛成派の人たちの中にも、悲観的な見方は少なくありません。しかし、野田首相はTPPに強い意欲を示している、という趣旨の輿石東幹事長の発言や、農協・旧社会党の出身で「農業の鉢呂」とも言われる鉢呂吉雄氏をプロジェクトチームの座長に据え、農協対策とも思われる人事などを見ても、政府に交渉参加へのやる気があるのでは、と感じています。この本が、TPP交渉参加決断の後押しとなることを願っています。


渡邊頼純(わたなべ・よりずみ)
慶應義塾大学総合政策学部教授。上智大学大学院国際関係論専攻博士課程単位取得満期退学。南山大学助教授、大妻女子大学教授、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、欧州連合日本政府代表部、外務省経済局参事官、外務省参与などを経て現職。主な著書に『GATT・WTO体制と日本』(北樹出版、2007)、『解説FTA・EPA交渉』(監修・編著、日本経済評論社、2007)、『WTOハンドブック』(編著、JETRO、2003)『国際関係論を超えて』(共著、山川出版社、2003)『ケースブック ガット・WTO法』(共著、有斐閣、2000)『WTOで何が変わったか』(共著、日本評論社、1997)『ガットとウルグアイ・ラウンド―WTOの発足―』(共著、1995)などがある。

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